オールスター スタメン発表! ナリーグ 

1 SS エドガー・レンテリア(カージナルス) .281 5HR 39打点 

チョコレート色の肌に、鋭い白い目のコントラスト、そして素晴らしく柔らく、そして敏捷な身のこなしには、まさに獲物を狙う野生動物のようで、一目見たら忘れられない美しさがある。02年、03年のナリーグ・ショートのゴールデングラブ受賞者で、バリー・ラーキン、レイ・オルドネスから、ナリーグ1のショートの称号は現在、彼が引き継いでいる。
打撃の方でもパワーはないが、守備同様柔らかなバットコントロールで、打率は残せる打者だ。メジャーリーグでは珍しいコロンビア出身で(彼で4人目)、母国ではすでにヒーロである。

2 2B ジェフ・ケント(アストロズ).288 10HR 52打点

メジャーでも数少ない、長打力があり、クリーンナップを打てる二塁手。かといって守備でも一流のものをもっており、強肩で守備範囲も広く、そして確実性もある姿は、オールスター・プレイヤーの名にふさわしい。
派手さはあまりないが、チャンスになると燃えるファイタータイプ。こういう選手が一人チームにいると、打線がしまる。

3 1B アルバート・プホルスカージナルス) .307 22HR 59打点

三冠王にもっとも近い男」の名称は、そろそろ公式化しそうな24歳。パワー、バットコントロールの柔らかさ、プレッシャーに動じない精神力の3つを、24歳にして持ちえているというのは、驚き以外の何ものでもない。昨年は43本ものホームランを打ちながら、.359という高打率を残し、首位打者まで獲得してしまった。
もしこのまま怪我もなく、順調に成長を続けていけば、アレックス・ロドリゲスのようなパーフェクトなバッターになることは間違いない。

4 LF バリー・ボンズジャイアンツ) .362 22HR 48打点

言わずと知れた現在最強のバッター。彼のバッターとしての圧倒性を示すのが、投手が彼から逃げるために選ぶ最良の方法、すなわち四球の数であり、02年には198個でシーズン四球記録を更新。そして今年はすでに131四球(その約半分が敬遠の四球)を受けており、自身の持つシーズン記録を塗り替えるのはほぼ確実な状況となっている。
ロッカールームに一人だけ個室をもらい、その部屋に専用の特大テレビをおいてしまうなど、実にマンガ的な要求をボンズができるのも、ひとえに彼のバッテイングがすごいから。40歳になっても衰えない身体は、決して才能だけではないはず。

5 3B スコット・ローレン(カージナルス)  .346 18HR 80打点

フィリーズでデビューしたときは、フィリーズ出身の「史上最高の三塁手マイク・シュミットの再来といわれた。その期待の通り、昨季まで4年連続5度目のゴールドグラブ賞授賞、打撃の方でも毎年30ホーマーは計算できるバッターになった。あとシュミットに近づくためには、打撃のタイトルが欲しいところだが、今シーズンは打点でリーグのトップにつけており、初タイトルの可能性も高い。

6 C  マイク・ピアッザ(メッツ) .300 16HR 40打点

野茂がデビューして以来、おなじみ強打のキャッチャー・ピアッザも、今年で36歳になり、そろそろキャリアの終盤に入ってきている。持ち味は鋭いライナー。もう何年前からバッティングに専念するために、1塁へ転向する話を首脳陣からはすすめられているが、キャッチャーをやめないのは、特別な思い入れがあるポジションなのだろう。メッツにとって唯一の、真のスラッガー

7 CF ? ランス・バークマン(アストロズ)  .298 16HR 59打点

ファン投票で選ばれたケン・グリフィーJrが怪我のため欠場。代わりに誰が先発するかは明らかにされていないが、残る5人の外野手の中でセンターを守れるのは、バークマンか、ベルトランの2人のために、どちらかが選ばれる可能性が高く、過去の実績からバークマンを僕は予想した。02年シーズンは打点王のタイトルを獲得。現在最高のスイッチヒッターの称号は、チッパー・ジョーンズブレーブス)から、彼へと移行し始めている。アストロズの新しい主砲。

8 RF サミー・ソーサカブス) .271 14HR 33打点

前半戦のうち、のべ約1ヶ月間の試合を欠場したこともあり、リーグを代表するスラッガーとしては、物足りない数字になっている。カブスが今年もワールドシリーズへの挑戦権を獲得するためには、絶対に爆発が必要なバッター。趣味がウェイト・トレーニングといわれるくらい、励んだトレーニングでつけたパワーは本物なので、当たればとにかくでかい飛球がとぶ。

9(予想) ロジャー・クレメンスアストロズ) 10勝2敗 防御率2.54

1歳年下で、完全試合の記憶も新しいランディ・ジョンソンと先発の座を争うはずだが、今シーズンここまでの成績は勝ち星が同じ、奪三振がジョンソン(145個>121個)、防御率でクレメンス(2.62>2.99)と、大きな差はない。
ただ今回はアストロズの地元、ヒューストンで開催されるため、クレメンスの先発が有力そうである。昨季40歳で17勝をあげながら、一度は引退を決意したのは、もはや彼がやり残したものはメジャーになかったからであろう。だが今季その引退宣言を撤回し、ライアンもできなかった、アストロズワールドシリーズ出場という目標のために帰ってきた。




(その他の注目選手)

1B トッド・ヘルトン(ロッキーズ) .349 17HR 56打点

00年に首位打者と、打点王という、相反する打撃タイトルを獲得したときから、メジャーの一流打者の仲間入りを果たした。パワーも毎年30本〜40本は打てる力を持っており、理想的なバッター。昨シーズンも打率ではプホルスに次ぎリーグ2位、打点では5位の成績を記録した。01年シーズン前にはロッキーズと11年契約を結び、生涯ロッキーズ宣言中。

1B ジム・トーミ(フィリィーズ) .293 28HR 61打点

現リーグのホームランレースのトップを走る。白人選手でボールを力一杯ひっぱたくバッティングスタイルは、クラシックな時代を彷彿とさせる。
チャンスに頼れるバッターなのも、古典的な強打者タイプ。

RF ミゲール・カブレラマーリンズ) .298 20HR 58打点

昨シーズン20歳でメジャーに昇格し、ワールドシリーズでは4番に入り、クレメンスからホームランを打つなど、マーリンズワールドシリーズ制覇に大きく貢献。
レッドソックスのラミレスと同じく、パワーがありながら、無理に引っ張らず右方向へ素直に打ち返すバッティングは末恐ろしい。見た目もラミレスのデビュー当時と同じく、細面の美青年だが、チームバッティングをこの年で理解するクレバーさには大きな可能性を感じる

P  ランディ・ジョンソンダイアモンドバックス) 10勝7敗 防御率2.99

今シーズン、完全試合を達成。百聞は一見に如かずの言葉通り、彼のすごさは一目見ればわかる。長い腕のために他の投手より球を離すのが遅く、その分150キロ台後半の速球は、スピードメーターより早く感じるはず。そして刃物のようなスライダー。人間として近づけうる最高の凶器ではないだろうか。

P  ダン・コルブ(ブリューワーズ) 26セーブ 防御率0.82

35試合に投げて、負けなし26セーブというのは立派。ただし三振をとるタイプではなく、打たせてとるコントールが身上の投手。コントロール主体のピッチャーで、防御率0点台というのは、驚異的だ。今回のオールスターが、大舞台デビューとなる。


※打順と先発投手は予想です。

オールスター スタメン発表! アリーグ 

1 CF スズキ・イチローマリナーズ)	      .320 3HR 31打点 21盗塁

ファン投票では外野手部門最後の枠を、松井秀喜と争ったが、最終的にはイチローが獲得。チームのマリナーズは今シーズン絶不調だが、イチローは例年通りの成績を残している。シーズンのちょうど半分、81試合の時点で112安打を放ち、今年も年間200本安打は現実的な数字となっている。その継続性を支える強さには、敬意の念を感じざるを得ない。
盗塁の方でも、デビルレイズのクロフォードが38盗塁と盗塁王レースを独走しているために、あまり目立たないが、リーグ3位につけている。

2 SS デレック・ジーター(ヤンキース)     .276 13HR 44打点

4月にヤンキースが低迷した時期と重なるように、開幕直後はスランプにおちいったが、ここまで成績を持ち直してきた。彼がいると、いないでは相手チームに与えるプレッシャーのレベルが大きく異なるクラッチヒッター。
個人的にも、チーム的にもライバルのガルシパーラ(レッドソックス)が、開幕から2ヶ月余りを怪我で出場できなかったため、今回は事実上、対抗馬なしで選出された。今シーズン大きな成長をとげつつある、レンジャースのヤングもまだまだ知名度では、ジーターにはかなわかった。

3 RF ブラディミール・ゲレーロエンゼルス)  .342 20HR 73打点

パワー、ミート力、肩の強さ、スピード(脚の速さ)、守備力という野球に必要な5つの能力全てを兼ね備える、5ツールプレイヤー。「都会は嫌い」というだけあって、今年モントリオールから移籍するときも、大都市のチームのオファーをけり、中都市アナハイムを選んだが、その選択は正しかったようだ。
毎年「30HR−30盗塁」は余裕で、「40−40」すら現実的な数字だが、ここ2年盗塁の数が減っているのは、彼が盗塁には重きを置いてないせいかもしれない。守備では素晴らしい強肩、スピードと柔らかさを兼備した運動神経で、潜在能力ではイチローをはるかにしのぐが、その余りにも高い自分の能力に油断して、時々見せる緩慢なプレーは、神に選ばれた天才の証明。もし彼が凡ミスをなくそうと思ったら?、第二のボンズが誕生する可能性が高い。

4 LF マニー・ラミレスレッドソックス)    .338 24HR 71打点

レッドソックスの4番にして、アメリカンリーグの4番。大きなパワーを持ちながら、ミート力が高く、右方向へ流し打つ技術は、メジャーでも超一流クラスにある。そのパワーと確実性のバランスの良さが、彼を大打者へとのしあげたげた。
インディアンスでデビューしたときは、細面の美青年だったが、その後のトレーニングで、体は二回りほど大きくなり、貫禄がついた。ただ当時の愛嬌は、顔から消えていない。

5 3B アレックス・ロドリゲスヤンキース)   . 275 21HR 51打点

21歳で首位打者になって以来、将来のクーパーズタウン行き(殿堂入り)は確実で、このままのペースでいくと、記録的にも伝説の選手たちに届く勢いだ。メジー実質10年目の今シーズン、すでに通算本塁打数は、メジャー記録であるハンク・アーロンの通算本塁打数の48%に達している。それでもまだ今年29歳。
後は記憶の面で人々の頭に残るためには、ヤンキースで一度はワールドシリーズのチャンピオンに輝けば完璧であろう。
オールスターで3塁を守るのは、01年のオールスター以来。その年引退が決まっていたカル・リプケンに、かってのポジションのショートを譲り、代わってサードに入った歴史がある。

6 C  イバン・ロドリゲス(タイガース)     .372 11HR 58打点

人類最強の肩を持つイバンも、三十路に入り、往年の力は衰えたかと昨年は噂されたが、弱小マーリンズで見事ワールドシリーズを制覇。そういったネガティブな噂は完全払拭した。実際昨年のプレーオフ17試合でも、マーリンズの中でもっとも頼りになるバッターはイバンだったし、今シーズンもその活躍通り、アリーグの打率首位を独走している。
かっては肩とキャッチング、打撃だけがとりあげられ、キャッチャーとしてのリードは大味だという意見もあったが、もはや誰もそんなことは言わない程、リード面でも思慮深いキャッチャーに成長した。

7 1B ジェイソン・ジオンビヤンキース)    .243 11HR 33打点

開幕から長いスランプが続いているのだが、ライバルのデルガドブルージェイズ)がさらなる絶不調なために、事実上大きなライバルがおらず、選出された感が強い。
今シーズンはスランプのほかにも、ステロイド疑惑問題や、最近の寄生虫に感染されて病気になるなど、ジオンビには大厄年。
本来の調子なら、ラミレスと同じくパワーも打率も高い選手なのだが、今のジオンビは残念ながら、平常時に比べると別人となっている。

8 2B アルフォンゾ・ソリアーノ(レンジャース) .289 16HR 53打点

今シーズンもここまでリーグ全野手の中で、最高のエラー数を記録しており、(メジャー全体では2位。ちなみに1位は、カズオ松井)、守備の課題は残るが、バッティングのほうでは、2塁手としてはメジャー屈指の成績を残している。日本同様にメジャーでも、2塁手というのは打撃よりも、守備の能力の方が重視されるので、打てる2塁手は少ない。今回のオールスターでソリアーノが最多得票をとったのも、アリーグのセカンドにライバルが少なかったというのも影響しているだろうが、彼の攻撃的なスタイルに魅かれる人が多いせいではないかと僕は推測している。

9 P(予想) マーク・マルダー(アスレチックス) 10勝2敗 防御率2.90

アスレチックスという低予算のチーム、同じ左腕のエース、ジートの陰に隠れてることもあって、日本での知名度はまだまだ低いが、実力的にはサイ・ヤング賞をとることも可能な投手。150キロのムービングファーストボールと、落ちるスプリットが、同じ腕の振りから投げられ、さらにコントロールもいいとあったら、そう簡単には打てない。
その他にもチェンジアップ、スライダーあり。01年には最多勝をとり、ここ3年間の平均勝利は18勝。





(その他の注目選手)

SS マイケル・ヤング(レジャース)     .332 12HR 52打点 7盗塁

アレックス・ロドリゲスの後釜として、ショートにコンバートされ、古巣のセカンドはソリーアノに譲った。慣れないショートを守りながら、バッテイグの方では去年同様、安打数200本クリアは確実で、イチローを抜いて、リーグトップのヒット数を打っている。ヤング・レンジャースの若きリーダー的存在。

3B ハンク・ブレイロック(レンジャース)  .308 22HR 64打点

ヤングレンジャースの快進撃を支える一人で、アベレージを残せるバッティングスタイルながら、パワーも併せ持つ。まだ23才で、間違いなく将来のレンジャースの看板になる選手。

1B デビッド・オルティーズレッドソックス) .301 23HR 77打点

僚友ラミレスとともに、リーグの本塁打王レースの1、2位を争っている巨漢バッター。元々ツインズでデビューし、02年にはツインズの4番として20HRを打ちながら、打撃が粗いという理由でトレードされた。今でもラミレスのように、隙がないバッターではないが、昨年、今年と長打力はアップしてきている。
初球打ちが大好きで、初球を見送ることは少ない。チームメイトがホームランを打つと、真っ先に飛び上がって喜ぶ姿は、いかつい体に似合わず、ほほえましい。

LF カール・クロフォード(デビルレイズ)  .302 4HR 34打点 38盗塁

昨年の盗塁王で、今季も盗塁王レースを独走中。この走力をもちながら、打率3割を残せる打撃力をつけはじめているのは、魅力的。あと数年すれば、他チームから引く手あまたのトップバッターになりそうだ。今回の開催場所ヒューストンの出身。

LF ヒデキ・マツイ(ヤンキース) .285 16HR 51打点

「ファイナル・ボート(最終投票)」で、32番目の選手ととして選出。今シーズンはオールスター前に、昨年の本塁打数16本をかっとばし、最終的に何本までのばすかは興味の湧くところ。オールスターでは、一流投手から目の覚めるラインドライブが見たいもの。

リリーバー ジョー・ネイサン(ツインズ)  1勝23セーブ 防御率1.17

昨シーズン、ジャイアンツのセットアッパーとして、「12勝4敗 2.96」の成績をあげた実績を買われ、ツインズに移籍し、クローザーに抜擢されたが、これが大成功。
ツインズが首位にいる原因の一つになっている。アリーグには彼のほかにも、F・ロッド(エンゼルス)、コーデロ(レンジャース)、ゴードン(ヤンキース)、そしてリベラ(ヤンキース)と、5人も防御率1点台のリリーバーたちがいるので、贅沢な投手リレーになるだろう。


※打順と先発投手は、予想です。

デーブ・パーカーの一投

今年のメジャーリーグのオールスターは、7月13日に開かれるが(始球式はなんとモハメド・アリ氏だそうだ)、オールスターの時期になると、日本の野球と比較するために、デーブ・パーカーの一投が話題にのぼることがある。
それは彼が守備だけで、オールスターのMVPに選ばれたことに、日本の野球との考え方の違いを見ようとする趣旨でだ。
パーカーは73年のオールスターにおいて、7回、8回の試合の終盤に外野からの好返球で2度もランナーを刺殺し、チームがその後逆転勝ちしたことから、MVPに選ばれた。
そういうこと日本ではないでしょ、というわけだ。
今の日本でこういうプレーができるとしたら、ファイターズの新庄か、ドラゴンズのアレックスといった選手が最有力候補だろうが、確かに彼らが試合を左右する刺殺を見せても、それだけではMVPに選ばれなそうな雰囲気は日本にはある。
とはいえ、アメリカでもオールスターにMVP制度が導入されてから42年の間で、守備だけを評価されてMVPを獲得したのは、パーカーしかいないから、こういうプレーが毎年生まれているわけではない。
問題は日本ではMVPを選ぶときに、「野球をもっと面白く感じさせるにはどうしたらいいか」という配慮と視点が、米国に比べると欠けているということだろう。
今の日本球界が、1リーグ制に移行しょうとしているのも、結局根底にはそういった「野球の世界を面白くしよう」という気持ちが、少ないから進行している気がする。
まずは日本のオールスターに一つ注文をつけたいとすれば、表彰されるべきは最優秀のMVPだけで、優秀賞の数名は発表だけでいいと思う。先日Jリーグのオールスターを見ていたら、MVPの石川直宏(FC東京)が表彰された直後に、同じ表彰台で優秀賞の数名が表彰されていたのだが、その光景はちょっと気のぬけた感じだった。それより誰が見ても試合を決めた選手、その選手たった一人の表彰の方が、よっぱどしまる気がする。

「オールド・ルーキー」の後ろには…

メジャーリーグを扱った映画といえば、古くは「打撃王」からはじまり、スポーツ・イラストレイテッドのスポーツ映画ランキングで上位に選ばれた「さよならゲーム」、「フィールド・オブ・ドリームス」に「ナチュラル」という素晴らしきベースボールファンタジーの2作、故パンチョ伊東氏が大絶賛した「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」、単純娯楽映画の「メジャーリーグ」、昨年ヒットした「オールド・ルーキー」などが有名だ。
この他にもフランク・シナトラジーン・ケリーという、ミュージカル映画のゴールデンコンビが共演した「私を野球に連れて行って」、球聖タイ・カッブの余りにも奇なる人格を描いた「カッブ」、そして伝説のシューレス・ジョーを含めた、8人のホワイトソックスの選手が球界を追放された真実を描く「エイト・メン・アウト」などがある。
その中で最近「オールドルーキー」を見たのだが、これが中々よくできていた。かってはメジャーリガーを目指すプレイヤーであった主人公は、肩の故障でその夢は断念し、今は高校教師をやっている中年の男である。だがある日、97マイル(156キロ)の速球を、自分が投げられることに気づく。物語はそこから始まるのだが、簡単には主人公は今の生活を捨て、再びメジャーリーガーを目指す人生は選ばない。それは彼が妻と2人の子供を放っておけないからであり、また怪我から回復した自分に全幅の信頼を置けないせいなのだが、その彼の背中を家族や高校の野球部の教え子たちが押し、少しづつ彼の心は野球の世界に向かっていく。そして再びメジャーリーグを目指すことを決意した彼は…というのが大まかなストーリーなのだが、これが実話とはいえ無理のないストーリーなので、特に違和感なく見れた。


そのため娯楽映画としては決して悪くないものだと思うが、それ以上の面白さがあったなと思ったのが、この映画を見るたことで、試合の見る視線が少し変わったことだ。
映画のラストで主人公は、デビルレイズに昇格し、レンジャース戦にリリーフとして、メジャーのマウンドに初めて上がることになる。正直言って今まで、僕はデビルレイズーレンジャースというカードに興味がほとんどなかった。
それは両チームとも大味で、勝利への情熱を強く持ったチームには残念ながら、思えなかったからだ。野茂が指摘する通り、メジャーリーグの試合はどんなにつまらない試合でも、これぞメジャーリーグ!というファインプレーが1試合に1個は出るものだが、それでもそんなチーム同士では試合自体には大きな期待はもつことはできなかった。
だがこのラストシーンのデビルレイズーレンジャース戦は、以前とは打って変わって、魅力的に僕の目に映った。それは映画の主人公が、画面に出ていたということも、もちろん関係しているだろう。だがそれ以上にこのカードを新鮮に感じた理由は、その瞬間の主人公の後ろに、無数の同様な人間がいるのを感じたからだ。


主人公は高校の教師をやめ、生活が苦しくなった家族のことを心配しながら、マイナリーグを過ごし、とうとう念願のメジャーリーグに昇ってきた。だがメジャーに定着し、安定した収入を得ることができるかは、これからの成績次第にかかっており、まだわからない。
このようなボーダーライン上の選手はまだ厳密にいえば、メジャーリーガーではない。だが新しいメジャーリーガーがうまれてくる場所は、常にそのボーダー上からだ。
この映画の素晴らしいところは、そのような人間がメジャーリーガーたちの後ろに無数におり、30チームだけでメジャーリーグが完結しているのではなく、30チームというのは後ろにいる彼らの上澄みに過ぎないということを、語っている点だ。デビルレイズという、メジャーでも弱小に位置されるチームに昇格することさえどれほど難しいか、そして家族を持ったマイナーリーガーたちはどんな思いでプレーしているか、それを映画では物語の後半で、主人公やその周囲のチームメイトを使って、描いている。
メジャーの下層部の深さを感じた瞬間、それがデビルレイズーレンジャース戦にも、光るものがあるのだと感じた瞬間だった。


具体的な数字で言えば、マイナーリーグが240チームに、独立リーグが46チームで、計276チーム。30チームの後ろにざっとこれだけのチーム、メジャーリーグの約9倍の人間が控えているわけだ。
それだけの競争を勝ち抜いてきた選手には、どんなチームに所属しようと、まず敬意を持ちたい。そうでなければ、メジャーリーガーにすらなれなかった選手たちは、無駄な人生を過ごしてしまったということになるのだろうか。
そうとはどうしても思えない。それは彼らがその瞬間、瞬間で、メジャーリ−ガーという夢に向かって、情熱を燃やして、生きてきたはずだと思うからだ。(給料が極端に安いマイナーリーガーより、稼げる仕事は少なくない。情熱以外の何が原動力だろう)そしてメジャーリーガーたちは、彼らの情熱を踏み台にし、彼らの未来の可能性を自分のものにすることで、メジャーにあがってきた者たちだ。
そういった他人の情熱と未来を食べて、大きくなったメジャーリーガーたちは、当然他人の存在を背負わざるを得ない。
そしてこのオールドルーキーの後ろにすら、彼にその座を譲った9人の男がいたのだ。
そのことに気づいたら、少しメジャーに対する目が、変わったように思う。

MLBの薬物問題

先日メジャーリーグ最高執行責任者(COO)デュバイ氏が、今シーズンからマグワイアも使用していた、筋肉増強剤アンドロステジオンの使用を禁止してていたということを、AP通信に明らかにした。
マグワイアがそれでまでのシーズンホームラン記録を抜いた98年には、アンドろステジオンはすでに国際オリンピック委員会(IOC)の禁止薬物リストには入っていたが、大リーグは使用を認めていた。しかし今年4月、米食品医薬品局が販売を禁止したのを受け、大リーグもとうとう使用禁止に踏み切った。
ご存知の方も多いだろうが、現在メジャーリーグでは薬物使用の問題が大きく取り立たされている。昨年に陸上男子100メートルの世界記録保持者であるティム・モンゴメリ選手が、連邦大陪審に召喚された際には、彼は栄養補助食品の社長から聞いた話として、社長がバリー・ボンズに筋肉増強のためのステロイドを渡しているということを直に聞いたと証言したし(もちろんボンズは使用を否定)、パドレスのウェルズは昨春に出した自伝の中で、「25〜40%」の選手が薬物を使っていると述べている。


僕個人の意見としては、メジャーリーグの選手の中に禁止されている薬物を使っている選手たちは、まずいるだろうなと考えている。
そうでなければ使用を疑われているボンズや、サミー・ソーサジオンビなどは、さっさとドーピング検査を受ければいいのに、彼らは使用を否定するだけで、自分の身の潔白さを証明する行動には何ら移っていないのが理解できない。
あまつさえソーサなどは記者から、検査を勧めたら怒りだす始末。これでは信じる方が無理だ。
ただこの状況を許している原因は、メジャーリーグ機構にもある。マグワイアのアンドロステジオンは禁止が遅れたためについ昨年まで合法的であったわけだし(だがマグワイアは99年からは使用をやめたとコメントしている)、ドーピング検査にしてもNBANFL、そしてオリンピックでしている検査に比べれば、その基準ははるかに甘い。
MLBが本気で薬物問題に取り組むならば、まずドーピング検査のレベルをオリンピックと同じレベルに持っていくことから始めるべきだろう。


メジャーリーグの薬物問題を取り上げたニュースを見たときに、上の文のように選手だけを責める気にはどうしてもなれないというのが、今の僕の正直な気持ちだ。
それはルールの網をくぐって薬物を上手く使えば、確かに筋肉は増え、パワーもつくのかもしれないが、薬を飲んだ選手たちはそれ以上の大きな対価を払っているとしか思えないからだ。
例えば昨年の春キャンプでは、オリオールズにいた23才の投手が熱射病で死んだが、検視結果ではダイエットのために常用していたサプリメントの中に入っていたエフェドラという興奮剤が、その死に影響していたことが明らかになっている。
これは一般論だが、ボディビルダーが筋肉増強のために使用するサプリメントが、内臓に悪影響を与える例を思い出すまでもなく、不自然なほどはっきりとした効果が出る薬というのは、同じくはっきりした副作用を持っているものではないだろうか気がしてならない。
一番気になるのは彼らがその副作用も理解して、薬の使用を選んでいるか、ということだ。


禁止されている薬物を使うことは、ルール違反なのは間違いない。
だがルール違反の取り締まりを、いつまでも強化しないのはなぜなのだ。
(来春予定の野球のW杯では、オリンピック並のドーピング検査が決定)
あるいはなぜできないのか。
今取りざたされている、薬物問題の最大の原因は、そこから発生しているのではないだろうか。

これぞベストショット!

まずはこの写真を見ていただきたい。(http://sports.yahoo.com/mlb/photo?slug=nyff11407020459.red_sox_yankees_nyff114
これは2日のヤンキースレッドソックス戦で、延長12回にレッドソックスのバッターが打ったファールフライを追いかけたショートのジーターが、ボールはキャッチしたものの、ブレーキが利かず、スタンドにつっこんでいったシーンである。
いくらフェンスがないとはいえ、スタンドの方にフライ追って、フルスピードで向かっていくのにも驚いたが、もっと驚いたのはスタンドにダイブしたジーターが顔を上げた時には、彼の右の頬とあごから血が流れていたことである。
フライを追ってスタンドに飛び込むプレー自体は、メジャーでもそう珍しくないプレーだが、血を流すほど思いっ切り突っ込める選手はそうはいない。
それもニューヨークのプリンス、スマーとトなプレーでステータスを築いたジーターのプレーなのだからなお驚く。
ジーターはこのプレーで顔の切り傷以外に、右肩も痛めたが、次の日のメッツとのサブウェイシリーズでは、予定通り先発で出場した。


まだ少年だった頃、僕にとっての最大のアイドル(そしてそれは恐らく一生続くだろう)は、阪神タイガースのカメヤマ選手だったが、彼の一番の魅力はいつでもどこでも全力プレーを見せてくれることだった。ある試合で彼は、久々にスタメンに、ダイビングキャッチで起きた怪我をから復帰して、帰ってきてくれたたと思ったら、その試合でも素晴らしいダイビングキャッチを見せて、怪我を再発させ、再び2軍に戻っていった。
その好ダイビングの後に、カメヤマが肩か腕かを痛めて、抑えていたのを見たときは、なんとも言えない気持ちになったが、それでもそのプレーはカッコよかった記憶として残っている。


「全力でプレーする」とは言葉にすると、何だか陳腐になってしまうが、実際に人のそういう姿を目にすると確かに記憶に残る。
カメヤマもジーターも、まさに“プロの精神が”あったからこそ、全力プレーができたのだろうが、だがもしもジーターが向かったスタンドにフェンスがあったら、カメヤマがダイブしようとしたのが甲子園(天然芝)でなかったら、多分全力は出せなかっただろう。出してしまったら、かえって危険だからだ。
金網にぶつかったり、ビニールの上を滑るようには、人間の体はできていないのだ。
この写真の後ろでガッツポーズを取っている背番号13の親友、アレックス・ロドリゲスのように、こんなプレーを目にしたら選手でさえ、感嘆してしまうのだから、ファンが見たらどそれこそ興奮を抑えられないだろう。
そういう記憶が、人を野球から離れなくさせる、何よりの麻薬だと思う。

ドーテルIN/ローズOUT

オークランド・アスレチックスは、クローザーのアーサー・ローズ投手を、背中の故障を理由に故障者リストに登録した。ローズはかつてマリナーズ時代には、佐々木、ネルソンとリーグ最高のブルペンをつくりあげ、01年にはチームの年間116勝(46敗)という歴代1位タイの記録に大きく貢献した。
だが昨年に防御率4点台を記録すると、今年もここまで27試合に登板して3勝3敗9セーブ、防御率5・28という成績にとどまっていた。
そこで抜かりないのが、アスレチックスのビリー・ジーンGM。ローズの不振を見て、6月24日にはヒューストン・アストロズからオクタビオ・ドーテル投手を獲得する。ドーテルは今年からクローザーの役を任されていたが、昨年まではセットアッパーを務め、ヤンキースのクアントリルともに、「球界最高のセットアッパー」の一人と称されていた。
今年アストロズでは14セーブ、防御率3.12とまずまずの成績を上げていた。
アスレチックスが毎年資金が少ない中バランスのいいチームをつくり、プレーオフに進ませるのはジーンGMの力が大きいと言われるが、現在のメジャーリーグでは名GMなくして、名チームをつくることは難しい。
92、3年にブルージェイズをワールドチャンピオンにのし上げた名GMパット・ギリックが、今オフに年齢を理由としてマリンナーズのGMを辞任したら、マリナーズがあっという間に地区最下位に沈んでしまったのは、そのもっともわかりやすい例だ。
選手もプロなら、コーチ、監督もプロ。そしてチームの方針を決め、選手を取捨選択するフロントもプロでないと、ワールドシリーズへ旅立つことは難しい。
そしてそのようなメジャーの能動的な球団フロントは、人気職業の一つである。
またこちらの方も、プレイヤーと同じく完全に実力主義であるため、現レッドソックスのGMのように29歳(エール大卒)で、GMの職に抜擢されることも稀有ではない。
日本の球団でも29歳のGMが就任し、彼がチームの編成を始めたら、と考えるとちょっと心躍る。