ある日、どこからか。

メジャーリーグの世界ではある日どこからか、突如として素晴らしい才能をもった選手が現れるという、おとぎ話のようなことが、シーズン中に何度か起きることがある。
例えばそれは去年の例でいえば、シカゴ・カブスの新しきクローザーになったジョー・ボロウスキーであり、フロリダ・マーリンズのウィリス、カブレラであった。ボロウスキーは01年までの11年間、マイナーリーグ独立リーグメキシカンリーグを流れ渡り、31歳の時にやっとカブスブルペンに入り、メジャーリーグに定着した。つまり彼は20代の10年間は、ずっとアンダーグラウンドの選手だった。
昨年メジャー2年目の彼は、2勝2敗33セーブ(防御率2.63)という成績でクローザーに定着し、クローザーを固定できないことがここ数年の問題だったカブスの弱点を補強して、チームの地区優勝に大いに貢献した。
もう一つのシンデレラプレイヤーたちは、ワールドシリーズチャンピオンになったマーリンズに、シーズン途中でマイナーから加入してきたドントレル・ウィリスと、ミゲール・カブレラという20歳と21歳の選手である。
もしもウィリスが、怪我人が続出して崩壊していたローテーションに入り、前半戦に活躍することがなかったなら、マーリンズプレーオフに進むことができなかっただろうし、またカブレラワールドシリーズリーグチャンピオンシップで、4番に入り、その期待にこたえる活躍をしなければ、マーリンズワールドシリーズ制覇もなかっただろう。


どうして毎年毎年こういうノーマークの選手が出てくるのだろうと思ったときに、脳裏に浮かぶのはマイナーリーグ240チームと独立リーグ5リーグ48チームという数字だ。
288チーム。メジャーリーグ30チームの下に土台となるチームがそれだけいるからこそ、上澄み部分であるメジャーに毎年、予期しない選手が現れることができるのではないだろうか。(何せ288チームの選手のことを全て把握している人間など何人いるだろうか。このほかにもメキシコ、韓国、日本、台湾などにもリーグはある)
逆に日本ではドラフト1位の多くの選手が、即戦力として通用することを期待されているのは、裏を返せば、日本には選手を育てるマイナーリーグのような場所はないということだ。
では日本のファームは何であるのかと考えた場合、それは一軍の選手の調整場所の意味合いが強い。
5軍まであり、外国人枠などないアメリカと、2軍しかなく外国人選手を3人までしか認めていない日本では、競争の激しさがまったく違う。どちらが魅力的な選手が出てくるか、その答えは考えるまでもないだろう。


今、日本のプロ野球ではチーム数削減の方向に動いている。それを決定したオーナーたちには色々な思惑があったのだろが、最も単純に考えた時、288チームの中から選手を選択するのと、10チームの中から選手を選択するのではどっちが優秀な選手に当たる確率が高いのだろうか。
昨年、「もしこの世界が100人の村だったら」という本がヒットしたが、実際にもしこの世界に100人しか人間がいなかったらたまったものではないな、と僕は思う。この世には50億以上の人間がいる。そんなにいるから食糧問題が起きたり、人は殺しあったりするのは事実だが、でもそれだけいるから様々な人間が現れる可能性があると僕は思っている。
チーム数を減らすということは、そこで暮らしている人間が確実に減るわけで、言うまでもなくそれは世界を狭めるということだ。
自分が愛す世界を狭める。どうもそれだけは理解できないことだ。