驚愕!

     
 明日のワールドシリーズ第6戦は、中3日でエース・ベケットの先発にマーリンズはなった。驚きを隠せない。
 先発投手はレギュラーシーズンでは、中4日ごとに登板している。1試合に先発して100〜110球前後を投げたら、中4日休ませるのが、万全の調子を整えるために必要と考えられているからだ。
 それがセオリーを破り、中3日でベケットを立ててきた。マーリンズは勝ち急いでいるのだろうか。このプレーオフで、本当の意味において素晴らしいチームになったというのに、この先発でもし負けてしまったら、今まで掴んでた勝利はほとんど意味がないものになってしまう。悲しい。とても悲しかった。第7戦の先発には、第4戦で好投しているパバーノを投げさせられるという報道にも空しさを感じた。そんな皮算用がなんだというのだ。

 マーリンズがここまで勝ち上がってきたのも、全ての試合で自分たちの持っている力を出し惜しみせずに、能力全てを相手に見せることができたらだ。やるべきことをやった。そうしたら相手の方がミスをしたり、ツキが偶然に訪れたりして、勝ってしまった。ブレーブスカブスがやるべきことを同じようにしていたらマーリンズは負けただろう。ジャイアンツやカブスも選手個々の実力では、はるかにマーリンズを凌駕していたわけで、同じ条件になったら選手が優秀な方が勝つのは当然である。
 しかし彼らは負けた。原因は2つある。一つはチームプレーの姿勢がマーリンズに比べ劣ったこと。もう一つは、選手が自分の実力を全て出し切らなかったということだ。
 チームプレーへの情熱がマーリンズに比べると低く感じられなかった理由は簡単だ。ただマーリンズの方が勝利に貪欲で、勝ちたいという意識が強かったからだ。どうして勝ちたいと思うと、チームプレーになるののか。
 それはベースボールでは、どうしても勝ちたいと思ったときにたどりつく答えは、チームプレーという考え以外にないからだ。このことは否定したくても否定できない事実だ。
 成熟したプロリーグでは、選手は全打席にホームランを打ったり、全てのバッターを三振にとることはできないし、たとえそんなことをしたとしても、味方のピッチャーやバッターがさっぱりだったら勝てることなどできやしない。ましてやそんな偉業を何試合も続けられることなどありえない。
 自分が例え全打席ヒットを打っても、試合には勝てないということに真に自覚している選手はメジャーリーグでもそんなに多くはない。ましてやそれをチーム一丸となって実行してくるチームはヤンキース以外にいないはずだった。 それを勝利よりも敗北の伝統のほうがあるマーリンズが、それも実績がある訳でもなく、高給取りでもない若い選手が多いマーリンズが、このプレーオフでチームプレイをする本当のチームになっていたのだ。
 そして一番重要なチームプレイは何なのか言われたときに、犠牲フライと犠牲ゴロだと言いたい。
 マーリンズでは無死あるいは一死で三塁にランナーがいると犠牲フライや一、二塁間にゴロを打とうとする姿勢がチーム全員に見られる。4番を打つ20才のカブレラでさえ、塁上にランナーがいる時はほとんど100パーセントの確立で右方向へ打とうとするバッテイングを見せる。一人として長打やホームランを狙おうとする考えがない。
 それでいいのだ。ホームランは必要ない。中くらいの外野フライを打てば、無死あるいは一死では1点が入る。ホームランが打てればそれに越したことはないが、力んだスイングで内野フライになったり、引っ張って三遊間への内野ゴロだった時のリスクのほうがはるかに大きい。
 日本の野球に詳しい人なら、無死あるいは一死で三塁にランナーがいたら犠牲フライを打つなんて当然だと思うかもしれないが、全てのメジャーリーガーがそれをセオリーだと思っているわけではない。
 全員で試合に勝つよりも、その試合のヒーローになりたいという選手も多いのである。全員で試合に勝つには、時には犠牲にならなければいけない時もある。一人の力で勝つのと、全員の力で勝つのではどちらがより確実で、強いチームになれるか。その答えは明白であろう。
 犠牲フライが持つ得点の意味はとても大きい。得点には「取ることのできる得点」と、「予期せぬ得点」の2種類がある。
 ヒットを打たなくても得点できる犠牲フライや犠牲ゴロでの1点というのは、取ることのできる得点である。逆に先頭打者がホームランを打ったり、一塁にランナーがいる状況で長打で得点するのは、予期せぬ得点である。
 取ることの出来る得点を確実に加算し、あとは予期せぬ得点が訪れるのを待つのが野球であるはずだ。
 予期せぬ得点は相手投手の調子や、打者の調子に左右される大変不安定なものであり、ある程度予想は出来てもそうなるとは限らない。だからこそ取れる得点を確実に取っておくことが試合の勝敗を大きく左右する。
 例えばアリーグ・チャンピオンシップ第6戦でレッドソックスは4回無死一、三塁で1点もあげられなかった。その回には先頭打者のケビン・ミラーがホームランを打ち、ヤンキースを4−0と突き放していた。ピッチャーもエースのマルチネスが好投を続けており、これなら勝てるなという緊張が緩んだ雰囲気がレッドソックスから感じられた。大いに甘かった。
 案の上というかレッドソックスヤンキースに追いつかれ、延長11回にサヤナラホームランを浴びた。野球に「もし」はないが、もしあの回に1点でも取っていたなら、試合は9回で終わっていたんじゃないか。負けたとしても少なくともチームとしては悔いは残さなかっただろう。レッドソックスにはワールドシリーズに行って欲しかったけども、こんなチームはチャンピオンにはふさわしくはない。
 
 カブスジャイアンツが、もう一つの選手の力を出し切らなかったというのは、今自分ができることを全てしなかったということ。
 象徴的だったのは、ナリーグチャンピオンシップ第6戦で8回にアルーがファンの邪魔が入り、ファールフライを取れなかった後に、プライアーが崩れたこと。
 プライアーの持ち味は、外角によくコントロールされた速球、カーブと、塁上にランナーを出してもピッチングのリズムが崩れないことの3つだが、そのファールフライの後にプライアーは全ての武器を捨てた。
 第7戦では、ウッドが自らスリーランを打って逆転したが、その後にも自分の持っている力を発揮できなかった。
 カブスにとってのアドバンテージはこの2人の投手だったのだが、それが武器でなくなった瞬間にマーリンズとの差は消えていた。一方のマーリンズもほとんどの投手がプレーオフで1回は打ち込まれているが、ある意味それは実力通りであり、期待外れではない。そうなってくると勝負の別れ目は、チームプレーに対する意識になってくる。

 このように相手とは違って等身大で戦ってきたマーリンズなので、エースという枠組みを超え、マーリンズで今一番信頼できる投手ベケットは万全の調子で第7戦に先発させ、パバーノを救援で使うのが絶対的なリリーバーのいないマーリンズにはベストであり、今までの姿じゃとないか思ったのだ。
 だが監督は通算1600試合を戦ってきた72歳の男だ。まさかその年で急ぐことがあるのかという思いが頭をめぐる。そんな時に新聞で、昨日の試合後のペニーのコメントを呼んで少し分かった。

 「目の前の一戦一戦を全力で戦うだけ。うちには1勝1敗(常に勝利を目指す意)でいいと思うようなヤツはひとりもいない。みんな準備はできている」
 
 このチームは本当に、目の前にある1試合だけに勝とうとしている。今日の
ことしか考えていない。負けても全てが終わるまで次の試合の勝利を目指している。確かにこれはいいチームのはずだ。こういう意識を選手全員が持っているとしたら恐ろしいチームだ。めったにこんなチームは現れない。
 恐らくマキーオン監督は、この選手たちの雰囲気を感じ取っていたから、第6戦にベストの選択であるベケットを先発させるのだろう。負けるとわかっているレッドマンを投げさせるのはこのチームに合わないと判断したのだろう。
 
 まただからこそ、ベケットも第6戦投げることを強く望んでいるのだろう。
  
「今度の先発には自信があるんだ。何かにすがるつもりもないし、中3日でも大丈夫だよ」
 
 以下はマキーオンのコメント。 

「先発を決める前にジョシュと話をしたら、彼はマウンドに立つことを熱望していたよ。苦しいときでも我慢できる男だからね」

ボストン・レッドソックスペドロ・マルチネスを中4日で登板させて、結局負けてしまった。サンフランシスコ・ジャイアンツはジェイソン・シュミットを温存したら、(ディビジョンシリーズの)第5戦を待たずしてチームは敗退しただろう。逆にヤンキースは、アンディ・ペティット投手が我々を相手(第2戦)に中3日で素晴らしいピッチングをしたじゃないか。答えなんてないんだよ。いろんな考えがあるとは思うけど、我々は第6戦を勝ちに行くだけさ」

 果たしてこれが最良の選択かは、正直言ってわからない。
 それでもマーリンズが戦う気持ちゆえに第6戦を捨てるのではなく、獲りにいく以上、たとえ今日負けたとしても第7戦を弱気で迎えることはない、と信じている。
 もちろん選手力の上回るヤンキースが有利なのは変わらない。しかしもしヤンキースを倒すとしたら、スター選手の寄せ集めではなく、チームになった“チーム”しかいないという考えもプレーオフが始まったときから変わらない。


 しかしマーリンズには絶対的なクローザーがいない!さあどうする?!