5ツール・プレイヤー  ゲレーロ

 野球に必要な全ての才能を全て持った野球選手はは、5(ファイブ)ツール・プレイヤーと、MLBでは称される。
 5ツール(5つの才能)とは、肩、守備力、スピード、打撃力(アベレージ)、パワーの5つである。
 5ツール・プレイヤーとは、オールラウンド選手の別名でもある。史上最高のオールラウンド・プレイヤーと言えば、ウィリー・メイズ(ジャイアンツ)の名が真っ先にあがるだろうが、走・攻・守が揃ったオールラウンド・プレイヤーはいつの時代もス−パースターの第一候補だった。

 ここ最近の90年代の代表的な5ツール・プレイヤーには、まずケン・グリフィJrをあげたい。このウェイトトレーニング全盛時代に、必要以上の筋肉をつけることを否定し、パワーよりタイミング重視の打法でホームランを量産した。4度の本塁打王獲得は、その打法が正しかったことを証明している。だが2000年に故郷シンシナティのレッズに帰ってからは、01年の怪我もあり、成績は急降下。かって当たり前だった打率3割は、もはや達成不可能な数字になり、本塁打も20本が限度になってしまった。心から愛していたはずのレッズからトレードの話も生まれ、彼は今キャリアで最も苦しい時期を迎えている。
 もう一人、今では完全な“バッター”になってしまったバリー・ボンズも、少し前までは素晴らしいオールラウンドプレイヤーであった。今では年齢のせいもあり、衰えたが、かってその左翼の守備はゴールドグラブ賞の常連だった。父ボビー・ボンズが記録した5度の30−30(HR数ー盗塁数)を超える、40−40を達成した走力も本物だった。昨年には、これまで誰も体験したことがない通算500−500を達成した。この数字こそ彼が総合的に優れた選手ということを表す何ものでもない。

 では果たして現在のMLBで、最高の5ツール・プレイヤーは誰かと言われれば迷わず、ブラディミール・ゲレーロ(昨季まではモントリオール・エクスポズ所属。今季からアナハイム・エンゼルス)をあげたい。レギュラーに定着してからのメジャー通算6年間での年平均成績は、37本塁打、打率.326
、110打点。バッティングだけではなく、守備の才能も一流で、肩、スピード、守備範囲全てが一級品である。その潜在能力の高さゆえに、手を抜いても平均的なプレーができてしまい、そのため散漫なプレーが多いが、実力をコンスタントに出せるようになれば、すぐにでもゴールドグラブ賞を授賞できるはずである。
 だがこれほどまでの選手が、いまだに何のタイトルとは無縁である。今オフ、彼は古巣エクスポズを出て、オーナーがディズニーから変わってチーム強化策を打ち出したエンゼルスに移籍した。面白いことに最貧球団エクスポズから移籍することを、ゲレーロが喜んだといえばそうではない。できることならモントリオールに留まることを、シーズン途中でも希望していた。それはゲレーロが、大都会にあるチームを好まないからである。必要以上に注目されることや、過度のプレッシャーといったものが野球についてくるのを彼は好まない。
 今回の移籍先にアナハイムを選んだこともそれに関係しているのだと思う。ロサンゼルスの近郊という恵まれた立地条件ながら、ファンの人気や注目度はイマイチ。ここでならプレーしやすいと彼は考えたのではないか、と僕は思っている。
 だが今季エンゼルスは、課題の投手陣にとてもいい補強をした。もともと打力はあるチームだ。ゲレーロがいつまでこのチームにいるかはわからないが、そのキャリアの全盛期をここで過ごすことになるなら、エンゼルスはとってもバランスのいいチームになると思う。
 しかし何でもできる選手特有のムラ気を持つゲレーロは、その弱点を生涯克服できないかもしれない。高い能力を持った選手にとって最大の敵は、自分であるだろう。でも、その才能が開花した時の輝きは、オールラウンドプレイヤーでしか表せない素晴らしいものだということを、僕は知っている。
 相手チームにとってのエンゼルとなるか、ファンにとってのエンゼルになるかは始まってみないとわからないが、それでもこれからのエンゼルスの将来性を、僕は結構買っている。このチームの未来がとっても楽しみだ。