カンセコ、39歳。彼も野球にとりつかれた男。

現地時間の3月1日、つまりこれを書いている数時間後になると思うが、ホセ・カンセコドジャースの入団テストを受ける。
通算本塁打は462本、殿堂入りの目安は大体、通算500本塁打以上なのであと38本で伝説のプレイヤーたちと肩を並べられる位置にいる。過去500本塁打以上を打った選手は、18人しかいない。現役のボンズ、ソーサと、そして引退後まだ2年しか経っていないマグワイア(有資格は引退3年後から)を除けば、いずれも残りの15人は殿堂入りを果たしている。

彼は殿堂に入れる価値のある選手かと問われれば、迷うことなく「イエス」と私は答えたい。個人成績では、新人王、本塁打王2回、打点王、MVP各1回を獲得し、アスレチックスでは“バッシュ・ブラーザーズ”と呼ばれたマグワイアとのコンビを組み、88〜90年にはナリーグ3連覇を果たした。実績も標準以上だ。
だがそれ以上に素晴らしいのは、彼ほどファンを楽しませてくれた選手も稀であるという点だ。今ではボンズ、A・ロッドも記録した「40−40(HR−盗塁)」を、88年に史上初めて記録した選手はカンセコである。実はこの年、彼は本塁打王打点王の2冠王に輝いている。日本で言えば清原や落合博光が、盗塁するようなものである。 
その選手が40盗塁も試合で走ってくれるのだから、球場に来たファンが喜ばないはずがない。

また大差で負けている試合には、観客に喜んでもらおうと、リリーフを志願してマウンドにあがったこともあった。あまつさえそのようなリリーフ中に、肩を壊し、その後のシーズンを棒にふったこともある。
このような行為を愚かなことだと、私は笑う気にはなれない。むしろ勇気あるチャレンジとして賞賛を持ってとらえている。
それは、このようなことを彼がしたのは、もちろん天性の目立ちたがりの気性のせいもあるが、それ以上に彼がファンの目というものを忘れていなかったからだ。
そのような選手をどうして非難することができよう。
彼がファンの目など気にしていない選手なら、どうして40本塁打打てる選手が、1番打者のように40盗塁もしなくてなならないのか。
もし「40ー40」がタイトル記録なら、そんなものは30年も昔にとっくにウィリー・メイズが達成していただろう。

そんなカンセコも39才になった。01年にホワイトソックスで打率.258、16本塁打の成績を残して以来、約2年間メジャーではプレーしていない。その後は薬物使用の告白や暴力事件などを起こし、メジャー復帰のチャンスがなかった。
果たして、再びカンセコはメジャーの舞台に戻ってこれるのか。
その結果はあと数時間後に分かる。だが、今回のセレクションに落ちたとしても彼は諦めないないだろう。
なぜなら、野球選手には野球にとりつかれていない人間と、野球にとりつかれた人間の2種類しかなく、彼はリッキー・ヘンダーソンと同じく後者の人間だからだ。
そう、私は思う。

(追記)
2日、カンセコの入団テスト不合格が発表された。ニュースによれば往年の影もないくらいに、衰えていたという。
果たしてこれからカンセコは、どこにいくのだろう。プレイヤーとしての時間よりもそれ以外の人生の方がはるかに長い。
現実的にはマイナー契約独立リーグでプレーするという手段があるが、カンセコは何を選択するだろうか。