この選手に注目!第2回「ジョシュ・ベケット」

フロリダ・マーリンズが昨年、奇蹟のワールドシリーズ制覇を成し遂げたられたのも、プレーオフ中に彼が自分の真の力に気づいたからだった。ワールドシリーズのMVPも文句がないところである。
球種は、100マイル(161キロ)の速球に、大きく落ちるカーブ、140キロ台(!)のチェンジアップの3種類。
球速があるだけでなく、100マイルの速球を、アウトローのストライクゾーンとボールゾーンの境界線に投げ込めるコントロールも持つ。
そして何より球が速いだけでは、決して完璧には打者を討ち取れることがない、ということを知っている知性もあわせ持つ。
そのような思考力が、彼を他の選手とは全く違った特別な投手にした。
昨年のカブスとのリーグ優勝決定戦の第1戦では、彼は緊張からなかば自滅する形で、相手に失点を許した。
だが、それから5日後の第5戦で、彼は全く別人に生まれ変わる。彼はそこで前回の失敗の原因は、他でもない自分自身だということに気づいていた。
その気持ちから生まれた投球は、ただ自分の心を見つめ、自分の力を全て出し尽くすにはどうしたらいいか、ただその一点にしぼられていた。
彼はその日、レギュラーシーズンでも一度としてやったことがない完封を記録する。ただの完封ではない。彼はその時、試合を完全に支配していた。そんなことは超一流投手でも、一年にたった一度もやれることではない。
その日からベケットは自分の中に眠る力に目覚め、マーリンズはワールドチャンピオンになるために必要な最高のピースを手に入れた。
彼がその日手に入れたもの、それは自分の感情をコントロールする能力、そしてその重要性だった。
この黄金率を発揮できる精神こそが、彼をただ速い球を投げるだけや、コントロールがいいだけの投手たちとを分ける、大きな違いになっている。

彼こそクレメンスの後を継ぐ、三振のとれる本格派速球投手だ。
客観的に見て、精神的な強さ、自分への謙虚な信頼の深さは、もはやクレメンスをぬいている。
あと残る問題は、速球派につきものである怪我のしやすさをどう克服していくかだ。怪我のせいで昨年は9勝、一昨年は6勝しかできなかった。これが一年間通して投げれるようになれば、20勝は現実的な数字になる。

もはや「90年代最高の投手」マダックスは老いた。カート・シリングはアリーグのチームに移籍し、ランディ・ジョンソンは今年41歳になる。
これからのナショナルリーグを背負っていく投手は、このベケット、そしてカブスのプライアーの二人であるのは間違いない。
彼らはともに今年24歳。
海の向こうのリーグでも、“松坂世代”は、確実に目覚めつつある。

(追記)
4月6日のエクスポズとの開幕戦の先発に、ベケットは指名された。これで2年連続の開幕投手であるが、彼は今年どこまで勝利を伸ばすのだろう。注目していきたい。