MLBのスイッチヒッター

左右両方の打席で打つスイッチヒッターといえば、古くはV9の巨人・柴田勲に始まり、高橋慶彦松永浩美、そして松井稼頭央と日本ではリードオフマン型の選手に多かった。
しかしメジャーリーグでは、スイッチヒッターはあらゆるタイプの打者、あらゆるポジションに存在している。投手で両打ちという選手も珍しくない。そのため下のような、スイッチーヒッターだけのベストチームをつくることも不可能ではない。


1 SS ファーカル    .292 15HR  61打点 (ブレーブス
2 2B ビドロ     .310 15HR  65打点 (エクスポズ
3 LF C.ジョーンズ  .305 27HR 106打点 (ブレーブス
4 RF バークマン   .288 25HR  93打点 (アストロズ
5  C  ポサダ     .281 30HR 101打点 (ヤンキース
6 3B B.ミラー    .326 19HR  85打点 (レッドソックス
7 1B スピージオ   .265 16HR  83打点 (エンゼルス
8 CF B.ウィリアムス .263 15HR  64打点 (ヤンキース
9  P  メイズ      8勝 8敗  防御率6.30 (ツインズ)


さらに投手のスイッチヒッターだけでなく、日本にはほとんど存在しない、左投げ右打ちの選手もメジャーには何人かいる。その何人かのほとんどはランディ・ジョンソンのような投手に多いというのも、面白い点だ。どうして左利きの大男が打撃では、右打席に入ろうと思っただろう。初めは特に何の意味もなくやってみて、やってみたら右打席の方が打てたからというのが、恐らくその理由じゃないかと僕は思うけど、アメリカにスイッチヒッターが多い理由もその単純さにあると僕はにらんでいる。
スイッチ打法を自分のものにするのは時間がかかるけども、それを始めようと思ったきっかけは、必要に迫られてからというより、ふとした思いつきだったり、遊びの中でやってみたら思いの他上手く打てたとか、そんなことじゃないだろうか。


95年の日本ハムの春のキャンプに、マッキントッシュという名のとても変な打ち方をする助っ人外人が来日した。彼はバットを握るとき、どうしてかわからないけども、右手と左手の間を10cmぐらいあけていた。案の上なぜそんな打ち方をするのかと、記者から聞かれると、「いや子供の頃、この打ち方で試してみたらよく打てた。それ以来この打ち方なんだ」と彼は答えていた。
マッキントッシュはたった1年だけで、56試合出場、打率.298、3本塁打という成績を残して帰ってしまったけど、その名前はよく記憶に残った。
それは打ち方が変わっていたからだけじゃなくて、その構えを一度も直されていないことに驚いたからだ。いくらその構えで打てるからといって、これが日本だったらと考えると、その構えは残っていなかっただろう。
そのフォームよりこっちの(正統的な)フォームの方がいいから変えなさい、という親切な大人が、彼の前に多く現れたはずだ。
干渉をしないのが自由だと考えることと、干渉をするのが親切なんだと考える違いは、乱暴に言ってしまえば、それが国民性の違いなのかもしれない。
とにかくマッキントッシュの打ち方を見て思うのは、こんな構えが許されるなら(遊びのスタイルに許す、許さないという表現もおかしいが)、スイッチヒッターになることが認められないはずはないということだ。
でももし日本の小学生がスイッチで打とうとしたり、マキントッシュのような打ち方をしていたら、それでいくら打てたとしても、何か言いたくてしょうがない大人はたくさんいるような気がする。
案外スイッチヒッターがメジャーに多くて、日本に少ない理由はそんな小さなところにあるんじゃないだろうか。
結局野球というのは道でもないし、精神修養のためのものじゃなくて、ボールゲーム(球遊び)なんだから、好きなようにやったらそれでいいと思う。遊びにはルールは必要だけど、スタイルまで決めてもらう必要はない。


そういえば日本のスイッチヒッターの中で、パイオニア的な存在である柴田勲が次のようなことを言っていた。
スイッチヒッターに転向させる考え方には、右投手には左打が、左投手には右打ちが有利だからというのがあるが、そんなことは全くない。そんなことより自分が打ちやすいと思う打ち方が一番なのだ。

じゃあどんな打ち方しようと、別に、と僕は思う。