現在最高のスイッチヒッター 〔1〕

チッパー・ジョーンズ 左翼手 32歳
3割30本は当たり前のミスター・ブレーブス

では現在のMLB世界で最高のスイッチヒッターは誰かといえば、つい数年前までは、守備も攻撃も超一流、チャンスにも非常に強かったバーニー・ウィリアムスだったが、彼も少し年を取った。そのため今そう聞かれれば、二人の名が思い浮かぶ。
一人は油の乗り切った時期を向かえている選手、そしてもう一人はこれから頂点を目指して登ろうとしている選手だ。
頂に足を踏み入れ始めた選手のほうは、ブレーブスチッパー・ジョーンズだ。野茂と新人王争いをした95年にメジャーに本格デビューしてから、8年連続100打点以上を記録してきた。
その間の平均本塁打数は31本、平均打率は.309というもので、現在最高のスイッチヒッターの称号は、今や彼のものといってよい。
この成績も消化試合や、試合が決まったあとで帳尻を合わせるように打ったものでない。「クランチタイム(試合を決める重要な場面)を生きがいにする打者がいる。僕はその一人だ」と言うだけあって、試合を決める局面で打ってきた頼りになる打者だ。
ブレーブス打線は彼なくしては成り立たないが、打線だけでなくブレーブスというチームにとっても彼はシンボルだ。ブレーブスは90年の最下位のときに全米1位で彼をドラフト指名してから、95年の38年ぶりのワールドシリーズ制覇、そして昨年の12年連続地区優勝とチッパーを主軸に新しい歴史をつくってきた。
投の顔だったマダックスは今年カブスに移籍しまったが、この先チッパーまで移ってしまったら、ブレーブスはチームのイメージを完全に変えてしまうことになる。
それほどブレーブスとチッパーは切り離して考えれない選手で、例えて言うならヤンキースにとってのジーターやマリナーズイチローのような選手だ。FA市場が盛んになり、こういうチームのイメージとぴったり一致するような選手はほとんどいなくなってしまったので、ブレーブスで生涯を終えて欲しいという感傷的な思いも僕にはある。
だがこれほどの選手もワールドシリーズのチャンピオンズリングは、ルーキーイヤーの95年だけしか持っていないというのはちょっと寂しい気はする。ブレーブスが緊縮財政を始め、強豪の座をおり始めている状況を考えると、将来的にトレードに出されるかもしれない可能性はある。
スイッチヒッターが残した本塁打記録は、ミッキー・マントルが残した536本(史上10位の成績)で、チッパーの昨年までの通算本塁打数は280本。その差は256本であるが、今季32歳になるチッパーにとっては実現不可能な数字ではない。
年間30本を8年半、あるいは25本以上を10年間続けられたら達成できる数字だ。ここ2年は26、27本とホームラン数が30本を切っているのはやや不安材料だが、大きな怪我をしない限り、彼の力からいって無理ではないような気はする。
だがそういう記録よりも、もう一度ワールドシリーズで見てみたい、そう思わせる大舞台が映えるスラッガーだ。