投手のスイートスポット

メジャーリーグの一流投手たちは、それぞれ実に多彩な決め球を持っているので、その投球にはなんの共通点もないように見える。
ところが個性はそれぞれ違う一流投手たちにも、探してみるとたった一つだけ共通点がある。
それは自分の活動場所を、外角のストライクゾーンぎりぎりのエリアにおいているということだ。彼らは外角のストライクゾーンゾーンのまさにギリギリ、球が半個ずれたらボールになってしまうその場所で、勝負をしかけてくる。
フォ−シーム(起動が真っ直ぐの速球)が得意な投手はそこにフォーシームを、ツーシーム(揺れ踊る速球)の投手はツーシームを、カットボールの投手はカットボールを勝負所ではそこに投げてくる確率がとても高い。
なぜか。その答えはとてもシンプルだ。バッターにとって最も遠い場所が、バットをボールに当てにくく、そしてぶつけても最も力を伝えにくい場所だからだ。
だがその言葉で言えばあまりにも単純な定理も、実行するのはとても難しい。誰もがそんな芸当ができるわけじゃないのだ。
それはもちろん高度なコントロール能力が必要になってくるせいだが、的とするそのエリアも試合ごとに少しずつ変化していく点も見逃せない。それは判定する審判の一人一人が信じているストライクゾーンが、少しずつ異なっていることから起きる。だから投手は試合が始まればいち早くその審判のストライクゾーンを見抜き、自分が投げるべき「外角いっぱい」がどこに当たるのか知る必要がある。目標とするエリアは、本当に狭いものなので、ボール一個の誤差が投手にとっては命とりになることもあるからだ。
そのため大投手ほど打者のクセだけでなく、審判のクセに対しても強烈な興味を持つ。彼らを知る者には、そのあいまいさを自分に有利に使うこともできるからだ。
通算373勝で歴代3位の記録を持つ大投手クリスティー・マシューソンも、その自伝では、審判に対して実に多くのページをさいている。
審判のクセを知ることで、自分が恩恵を受けることをマシューソンは知っていおり、だからそれほど彼は審判に興味を持ち続けたのだ。


現代の超一流投手では、何度かこのページで紹介したジュシュ・ベケットマーリンズ)も、彼と同じく投手に必要な全ての能力を持つプライアー(カブス)も、レッドソックスをチャンピオンにするためにボストンにきたシリングも、その共通点は外角いっぱいのスイートスポット(投手の)に、決め球をコントロールできるということだ。
そこに力のこもったボールが投げ込めている限り、投手はバッターより大きく優位に立つ。ここに配球されるとまずバッターは、バットを振り出せないことも多い。
豪腕ランディ・ジョンソンも、精密機械グレッグ・マダックスも、そのタイプは全く違っているが、お互い投球の生命線は、外角のストライクゾーン限界へ決め球を投げられるかどうかだ。内角のボールは、その外角のボールをより遠くに感じさせているためにつかっているといっていい。もちろん裏をつくといった例外はある。でも基本ラインは外角の限界、そしてその限界をさらに遠くへ追いやるための内角なのだ。
だからよくメジャーでは球速が早いだけでは投手は通用しないと言われるが、そのことを正確に言うならば、外角のストライクゾーンぎりぎりに投げ込めない投手は球速に関係なく通用しないということなのだ。
逆に140キロ以下の速球しか投げられない投手でも、どんな状況においても外角いっぱいにボールをコントロールできるなら、その投手は一流投手だ。そういう投手は必ず結果を出しているはずである。
それが速球派でも、軟投派でも、勝てる投手の共通点なのだ。