閑話休題 「ワンダフルライフ 反町隆史の涙」

普段はほとんどドラマなど見ないのだが、たまたまテレビをつけると野球のドラマをやっていた。チャンネルをつけたとき、すでにそのドラマは1時間のうち30分を終えてしまっていたが、残り30分でも僕には十分楽しめた。
テレビ欄の紹介や後で見た番組のHP、そして僕が見た30分の話を総合すると、ドラマのストーリーは以下のようなものだ。
あるプロ野球選手が怪我のために引退する。彼は自分勝手なトラブルメイカーだったために、引退後はどこのチームからもコーチの依頼もなく、またこれまでに散々倣岸な態度を取ってきたために、どのテレビ局からも解説者やゲストとしての依頼がこない。
そして引退と同時に離婚により多大な慰謝料を請求された彼は、これまでの貯金も家も全て失い、ほとんど一文無しになる。だがそこへ飲み屋の借金取りが現れて、彼は早く金を払うように脅される。そのため全ての収入の道を閉ざされ、貯えを失った彼は、プロ野球時代にもらっていた年俸に比べればはるかに少額の報酬で、ある少年野球チームの監督をせざるを得なくなる。でもそのチームは本当に弱くて、、、というところから話は展開していく。主演はその元野球選手に反町隆史、彼に監督を依頼した野球少年の姉役に長谷川京子
上のストーリーの通り、初めはこれといった特徴のない普通のドラマで「がんばれベアーズ!」の二番煎じ、三番煎じ的なものなのだろうかと感じていた。
次のような場面がなかったら、特に何の記憶にも残らないドラマだっただろう。それはこんな場面だった。


そのどうしようもなく弱い野球チームは、彼が監督をした初めての試合に勝つには勝つのだが、それは彼が命じた反則すれすれのプレーによるものだった。当然子供たちは納得がいかず、誰一人野球を楽しめない。しかし監督はそのことに気づかず、一人自分の采配にはしゃぐ。その試合後の晩、試合を見ていた少年の姉は、報酬を渡し、彼に監督をもうしてくれなくていいことを彼に告げる。だがその理由を全く理解できない彼は、釈然としないまま、その姉弟の家に間借りする部屋で最後の一夜を過ごす。
その晩何の気なしに、数少ない自分の荷物から子供のころの古いアルバムを見つけた彼は、子供時代の自分が背番号23をつけていたのを発見する。そしてなぜ23をつけるようになったのかを、隣で寝ていたマネージャーにぽつぽつと語り始める。
「オレ、昔日米野球に行ったことがあったんだ。メジャーリーグプロ野球のオールスター対決のね。確か新聞の勧誘で券をもらって、親父と二人で行ったんだ。もちろんオレは日本側のファン。あの当時メジャーなんて知りもしなかったし、何よりプロ野球に夢中だった。だから絶対に日本が勝つって、始まる前から興奮してたね。だけど試合が始まって見ると、初回先頭打者のシカゴ・カブスの選手が、初球をショートへ打った。オレはショートライナーに打ちとったと思って見てたんだ。だけど打球はショートに低空で向かっていったら、そのままぐんぐん伸びて、ショートの頭を越し、レフトも越し、スタンドに突き刺さった。オレはその弾道に驚き、動けなかった。固まった。だって投手はあの豪腕江川だぜ。信じられなかったよ。でも後にオレは知った。背番号23、ライン・サンドバーグ。彼がメジャー史上最高の二塁手と呼ばれる選手だということを」
こう話す反町隆史の目は、涙で光っていた。


このドラマが本来対象者している、ほとんどの人には何故反町が泣くのかわからないかもしれない、と僕は思った。世間の人はそこまで野球好きじゃない。でも僕にはその涙が痛いほど理解できた。たかがボール遊びなのに、野球にはそれだけの魔力があり、忘れられない瞬間があるとき訪れことを僕も体験したことがあったからだ。だからドラマは嘘かもしれないが、反町が話したことは嘘じゃない。現実に起こりうることなのだ。
そして次に思ったのは、このドラマの脚本家は、もしかして本当に野球が好きなのかもしれないということだった。そうでなければ反町にこんなことを語らせるはずがない。
そういうわけで俄然、火曜9時のフジテレビ・ドラマ「ワンダフルライフ」が気になり出した。果たしてこの脚本家がどこまで野球が好きなのか、もう少し確かめてみたい気がするのだ。


ちなみにホームラン王とゴールドグラブ賞のタイトルを授賞した、サンドバーグの背番号23は、シカゴ・カブス永久欠番になっている。そのサンドバーグも、ワールドシリーズは一度も経験することなく97年に引退した。