Who is  “AKI”?

ロサンゼルスから南へ約200キロ下った、“メキシコへの玄関”であるサンデイエゴに、パドレスというアメリカにおいてすら、地味な印象を持たれているチームがある。元々強豪チームではなかったが、98年に久しぶりにワールドシリーズに出場すると、まさに1年限りの大輪の花を咲かせ、義務は果たしたといわんばかりに、翌年からは下位にどっぷりと沈んでいく。日本ではそれ以後もそれ以前も、伊良部秀輝がロッテからメジャー移籍しようとしたときに、拒否したチームという報道がほとんど唯一んものだった。(結局伊良部はこのあと、ロッテ、パドレスヤンキース間の三角トレードで念願のヤンキースに入団している。)
今年その決して派手でないチームに、同じく派手ではない一人の日本人選手が入った。
その男、大塚晶則松井稼頭央と同じく、かってはパリーグの顔だったが、彼ほど派手なイメージを持たれていなかったので、大きな注目を集めずにパドレスに入団した。
だがシーズンが開幕して1ヵ月が過ぎた現在、日本人メジャーリーガーで最高の活躍をしているのは、松井稼頭央でもなく、イチローでもなく、松井秀喜もなく、パドレスに入団した大塚である。


彼のこれまでの成績は13試合に登板して2勝1敗1セーブだが、防御率は0.64。初登板した日に失点をきっして以来、残り12試合を全て無失点で抑えるという、ずば抜けた成績を残してきている。
その好投を受けて大塚は、クローザーにつなぐセットアッパーを任されるまでに現在ではなった。彼の後ろには、ナリーグでも屈指のクローザーであるホフマンが控えており、今のパドレスの勝ちパターンはこの二人で試合を終わらすことになってきている。
また単に成績だけでなく、社交的な大塚はクラブハウスでもチームに溶け込もうとし、それは成功しつつある。決して英語に堪能なわけではない。それでも大塚はチームメイトとカードゲームをしたり、英語が完璧でないにせよ積極的に同僚たちと会話をしようとし、彼らの冗談にも自然に笑う。
チームメイトはそのように進んで、異なる文化に飛び込み、理解しようとする大塚を“アキ”という愛称で呼び、徐々に信頼を置き始めている。


大塚のメジャーリーグ挑戦は、これまでスムーズに来たわけではない。一昨年の02年オフには、大阪近鉄からポスティングシステムでメジャー移籍を試みたが、入札した球団はゼロ。再び時間をおかなけらばならなかった。それでも目の前の事を怠ることなく、メジャーリーグの球団の代わりに近鉄から移籍した中日ドラゴンズでは、17セーブ、防御率2.09の成績を残し、去年再度のポスティング制度で、パドレスに移籍した。
そのため大塚にとってメジャーリーガーになるということは、時間をかけた願望だった。
これからの大塚のことを考えた時にとても大きな意味を持つのが、その願望期間の長さではないだろうか、と僕は思う。
確かに今は素晴らしい成績を残しているが、これから各球団とも大塚のデータを分析し、弱点をついてくるだろう。
その時に踏ん張れる源になるのは、かつて胸の中に溜めた気持ちというもの以外にないように思うからだ。
別にこれは野球に限ったことではないだろうけども、誰にでもこれをしたい、あれをしたいという気持ちはあると思う。でもそれを本当に実行したり、実行してみたが困難にぶつかった時に耐えられるのは、心の器にその願望の雫を一滴一滴ためられていたかにかかっているのではないか、と思ってしまう。
今大塚がマウンドで好成績を残していることや、チームメイトに溶け込もうとしている全ては、その願望(メジャーで野球をしたいんだ!)から生まれているように僕には思える。
「求めよ、さらば与えられん」と言ったキリストではないけれど、その気持ちがある限り、大塚は、最終的には、プレッシャーにも克つことができるのではないだろうか。なぜならその気持ちが一番大事で、それがなければ何も始まらないからだ。
近鉄、そしてメジャーリーグの尊敬する先輩、野茂英雄に憧れてつけた背番号「16」の投手が、このままの活躍を続ければ、伏兵から本命に変わる日も必ずくる。