今年のシンデレラチーム1号は、テキサス森林警備隊(レンジャース)

一体どうしたことだろう。アリーグ西地区はシーズン開幕前、“守”のシアトル・マリナーズ、“攻”のアナハイム・エンゼルス、“投”のオークランド・アスレチックスの三強で優勝争いが行われると思われていた。そしてそれ以外外のもう1チーム、テキサス・レンジャースが地区最下位ということだけは決まっていたはずなのに、今首位に立っているのは、そのレンジャースなのだ。


ふりかえってみるとレンジャースはここ2年間というもの、不均衡貿易ばかり続けてきた。つまり選手を放出するばかりで、獲得することはほとんどなく、人材の面で輸出貧乏の状態におちいっていたのだ。もちろんそれには理由があって、レンジャースのオーナーが、野球に対する情熱を失いつつあり、予算を切りつめにかかっていたからだ。
この2年間で放出した選手を思い出してみると、昨年では“球界最高のキャッチャー”イバン・ロドリゲスと、元セーブ王のアービナ、代打の切り札・シエラ。
今オフには「球界の至宝」アレックス・ロドリゲスヤンキース移籍を筆頭に、90年代を代表するスラッガー・コンビのホアン・ゴンザレスとパルメイロ、そしてクラッチ・ヒッターのカール・エバレットの主力をごっそり失っている。
残ったのは若手選手ばかりで、彼らに高い才能があるのは確かだったが、その開花は十分な経験を積んだ数年後だ、というのが自然な見方だった。
ところがチャンスをつかんだ若手選手たちの才能が、今年早くも爆発し始めている。


アレックス・ロドリゲスの後を受けつぎ、ショートを守るマイケル・ヤング(27歳)はまだシーズンの15%を消化した時点なのにすでに40安打を放ち、アリーグ最多安打のトップを独走している。(2位は同僚ブレイロックの36安打。イチローは30安打でリーグ16位)これでは去年に引き続き、年間200安打を超えるのは間違いないだろう。
A・ロッドとの交換でヤンキースから来たソリアーノ(27歳)も伸び伸びとプレーし、打率で3割を超えるだけでなく、出塁率でも.360を超える成績を残している。そしてレンジャースがもっともその将来に期待をかけるハンク・ブレイロック(23歳)にいたっては、この調子のままいけば、3割30本100打点は十分射程権内だろう。
だがこの3人よりさらに驚くのが、これまでほとんど実績がなかった外野陣の3人だ。センターのニックス(23才)は今年初めてレギュラーを勝ち取ったというのに、.365という高い打率を誇り、ホームランもブレイロックと同じ5本を打っている。
昨年までマイナーとメジャーを行ったりきたりしていたライトのメンチー(26歳)も、打率3割を維持し、完全にメジャーに定着した。
そして最大のサプライズ・プレイヤーが、ソリアーノのトレードでヤンキースからおまけのようについてきた、レフトのデルーチだ。ヤンキースでは代打ですらなく、代走・守備固め役の選手にしか過ぎなかった30歳は、今季打率では.338を記録し、ホームランはこれまたチームトップタイの5本をかっとばしてしまっている。
この選手たちの集まりでは、チーム打率.310という驚異的な数字が残せるわけのもうなずける。もちろんメジャーリーグ全体でも、チーム打率が(個人じゃない!)が3割を超えてしまっているチームはレンジャースだけだ。



「数年のうちに、レンジャーズはワールドシリーズを狙えるチームになる」
そう予言する人間も、米国の解説者の中には現れ始めている。
(詳しくはこちらを参照して下さい。http://inews.sports.msn.co.jp/columns/MLB_673.html
確かにこれだけ20代の有望な選手を抱えるチームならば、数年後にはもっと面白いチームになっているはずだ。
それでは、《今年の優勝は無理だろうか?》との問いの鍵は、シーズン前に最下位予想の決め手となった投手陣にかかっているだろうか。
現時点では、チーム防御率は3.99のリーグ6位と大健闘を見せているが、その好調さの中に弱点が隠れている気が僕にはする。
それはその好成績を支えている先発投手二人が、40歳のケニー・ロジャースであり、これまで全く実績のなかった29歳のR.A.ディッキーであるということ。
ロジャースにしても、ディッキーにしても、豪速球を持っていたり、特別な球種を持っているわけでないので、果たして今の好調を維持して1年を乗り切れることはできるか?と言われたら、首を横に振りたい気持ちが僕にはある。
逆にブルペンの方は、快速球を誇る新クローザーのコーデロ(28歳)に、昨年とは打って変わった活躍をしているセットアッパーのジェフ・ネルソン、そしてチームの好調の波にのったベテラン・パウエルがおり、特に問題はない。そのためこれから先も勝ち続けるには、先発陣に本格派投手がどうしても一人は欲しいところだ。
それが、今年のレンジャースにはなくて、昨年のマーリンズにはあった最大の違いではないだろうか。