21歳のA・ロッド2世が、好発進。

  ナショナルリーグ本塁打ランキング ※現地5月11日現在


1位 11本 ミゲール・カブレラ   (フロリダ・マーリンズ
     〃  アダム・ダン      (シンシナティ・レッズ
     〃  スティーブ・フィンリー (アリゾナ・ダイアモンドバックス

4位 10本 ジム・トーミ       (フィラデルフィア・フィリーズ)    
    〃  ルイス・ゴンザレス   (アリゾナ・ダイアモンドバックス
    〃  バリー・ボンズ      (サンフランシスコ・ジャイアンツ
    〃  エイドリアン・ベルトレー(カンザスシティ・ロイヤルズ


昨年のワールドシリーズではわずか20歳ながら4番を任され、チームの優勝に大きく貢献したミゲール・カブレラが、今年も順調に成長し続けている。昨年はシーズン途中にマイナーリーグからメジシャーに昇格したために、87試合の出場で「打率.268、12HR、62打点」の成績に終わったが、今年は開幕から主に3番右翼のポジションで、スタメン出場している。
11日現在の成績は打率.288、11HR(リーグ1位タイ)、26打点(リーグ6位)と、昨年のプレーオフからの素晴らしいバッテイングを維持し、チームにとって欠かせない選手になってきている。


カブレラの打球は非常に特徴的である。彼のスイングは、いわゆるホームランバッターにイメージされるパワフルな感じではなく、コンパクトなスイングなのだが、打球は予想以上に伸びていく。
カブレラは、同じ中南米系の選手である「現在メジャー最高の選手」アレックス・ロドリゲスを尊敬しており、憧れの選手であるのだが、そのA・ロッドに打球の特徴がよく似ている。
(A・ロッドはニューヨークで生まれたが、両親はともにドミニカ共和国出身で、カブレラベネズエラ出身。)
A・ロッドもまたコンパクトなスイングから、驚くほど伸びがある打球を放ち、両者ともそのように決して引っ張るだけの力任せのスイングではないので、ホームランだけでなく、打率の方でも高い成績を残せる点が酷似しているのだ。
守備の面でも昨年は三塁から始まり、プレーオフに入ると右翼、左翼と初体験の外野のポジションも与えられたが、危なげなく守備をこなした。
まだ21歳という発展途上のために、パワーではA・ロッドにかなわないが、いずれ彼に匹敵するような選手になることは間違いない。
そう思わせるのはただ彼が高い身体能力を持つからだけではなく、彼が「思考」できる選手でもあるからだ。
たとえば昨年のプレーオフでのこと、カブスマーリンズのナリーグ優勝決定戦で次のような場面があった。
4−5とマーリンズが1点を追う5回表の攻撃で、4番のカブレラに打席が回ってきたとき、状況は1死2、3塁だった。まずは最低でも同点にしたいマーリンズとしては犠牲フライでも何でもいいから、とにかく1点が欲しいのだが、相手ピッチャーはエースのケリー・ウッドで、速球にはまだ威力がある。
そこでカブレラはウッドの球に詰まりながらも、右方向(1、2塁間)へ、内野ゴロを打った。
そのボールをファーストがつかんだときには、もう3塁ランナーの俊足カスティーヨはホームの目の前に来ており、彼が同点のホームを踏むことを阻止できないことは明らかだった。そして次のリーのタイムリーヒットで逆転し、マーリンズはそのままワールドシリーズに進むことになる。


どんなに才能にあふれている選手でも、状況判断ができない選手は、残念ながら超一流には決してなれない。例えばヤンキースの中でもっとも高給をもらっているのは、主将のジーターだが、毎年チームには彼より打率がいい選手、ホームランを打つ選手、盗塁が多い選手が必ずいる。
それでも彼がチーム1の年俸をもらっている理由を一言で言うならば、「彼ほど打つ必要がある時に打ち、打つ必要がない時に打たない選手がいない」ということだ。
要するにチームが苦しい時に、相手投手を攻略する布石や、口火を切る役目をチームで一番多く務めているのはジーターであり、その成績はただ消化試合や2線級の投手を打って積み上げた成績とでは比べられないということなのである。
カブレラにもその素質があると僕は思っている。
それは昨年のプレーオフなどの一例でもそうだが、それ以外にも自分本位ではない彼のバッティングを見ていると、彼が個人の栄冠よりチームの勝利を優先している気がしてならないからだ。そしてチームの勝利こそが野球選手にとって真の栄冠なのだということを、21歳にして気づいているように思えてならない。
ジーターの長所もまさにそれと同じで、チームの勝利という大きなものを考えるために、一選手ながら全体を俯瞰できるようになってしまった点だと前々から思っていた。そしてだからこそヤンキースは彼に、チームで最高の成績を残していない選手に、チームで最高の年俸を与えているのだろう、と。


マーリンズには投手の方にも、高い能力と高い思考力の両方を持つ選手、ベケットがいる。
順調にいけば数年後には、二人とも年俸10億円を超える超一流選手になっているだろう。そうなったら予算に余裕のないマーリンズとしては放出せざるをえなくなるだろうが(何しろ昨年イバン・ロドリゲスの年俸12億円を、4年間の分割払いにしている)、そうなる前にもう一度、二人が同じチームにいる間に、このチームのワールドシリーズ制覇を見てみたい気もする。
将来殿堂入りするエースと4番が、弱小チームに黄金時代を築く。
基盤が弱い(予算に余裕がない)マーリンズという舞台にしては夢のような話もかもしれないが、それも野球とというたかが「球戯」に夢を見れるのだから、それも悪くないと思う。
ただマーリンズの3度目の優勝は不確定なことかもしれないが、ベケットカブレラの二人が、今から30年後には殿堂入りするだろうことには、疑いを抱いていない。
それは確信といってもいい。
それだけこの二人の、高い能力を持ちながらも、思考できる頭脳を持つことができた点というのは、メジャーリーグでも異色なのだ。