21世紀期待の投手が、帰ってくる。(上)

シカゴ・カブスの先発右腕マーク・プライアーが、怪我から復帰し、6月4日にマウンドに帰ってくることが決定した。プライアーは昨年18勝(6敗)をあげ、奪三振数でリーグ2位、防御率でチーム3位の成績を残した23才で、次世代のメジャーリーグを背負う選手と目されていたが、今年の春のキャンプで、右アキレス腱と右ヒジの両方を痛めて、DL(故障者リスト)入りし、今シーズンはまだ一度もメジャーのベンチに入っていなかった。
その間リハビリ・トレーニングを続け、先月30日にはカブス傘下の3Aアイオワで好投。これがカブスのベーカー監督を決心させることになり、6月4日の対ピッツバーグ・パイレーツ戦に、先発することが決まった。


カブスのエースと言えば、21歳の時に1試合20奪三振というメジャー・タイ記録を作った、まずケリー・ウッドの名があがるが、潜在能力ではプライアーの方により底の知れなさが感じられる。
それは彼が、球速、球威、コントロール、そして自分の感情をコントロールできる精神力の4つをすでに兼ね備えている投手だからだ。去年の成績は、これから始まる彼の超一流投手としてのキャリアの始まりに過ぎない。
時速150キロ強の速球に、それよりおよそ20キロは遅い、大きく落ちてくるカーブが、投球に緩急のアクセントをつけ、それらが要所要所できちんとコントロールされる。
プライアーはシンプルだが非常に強力なその武器だけで、一流投手になる資格は十分にあるが、さらに彼をもう一段階上のい選手にしているのはその精神力だ。
例えば彼は、塁上にランナーがいても、いなくても、その投球に変化はほとんど現れない投手だ。たったこれだけのことが、それが彼を他の選手とは全く違う選手にしている。
それはつまりプライアーと戦う時は、彼に対しては精神的な揺さぶりがほとんど意味をなさないし、ましてや自滅というものを期待することはできないのだ。どんな状態でも、そのときなしうるベストパフォーマンスをしてくる投手ほど、難攻不落の城はないだろう。
なぜなら勝利するには常に、彼よりベストパフォーマンスをしなければならないからだ。タナボタの勝利は彼に限っては、ほとんどありえない。


彼がそのような精神を獲得しているのは、他者によって影響されてしまうことが、敗者になるのにもっとも簡単な方法であることを、また他人ではなく最終的には自分を見つめることに集中することが、自分にとってのベストパフォーマンスを尽くすための、最善な方法であることを、知っているからであろうと僕は思う。
大変にシンプルなことだが、いざどんな場面に出会っても、普段と変わらずにその瞬間のベストパファオーマンスを実行するのにはとても難しいことだ。
僕はそのことを思うたびに「なんたることだ」と畏敬の深いため息をついかざるをえない。
彼はこの若さですでに勝利というものが何か知っている。


彼の球速や球威、コントロール、そして実践的な球種を見る限り、彼がもともと大きな才能を持つ投手だったことは間違いない。
だがそれ以上に彼を将来の大投手だと、多くの人に言わしめる要因は、彼の根底にある「思考能力」だろう。
その能力に、才能が兼ね合わされば、どんな危機も乗り越えられそうだという説得力を人に感じさせるのだ。