セットアッパー<クローザー…?

サンディエゴ・パドレスの大塚に続いて、シカゴ・ホワイトソックスの高津が好調だ。二人ともセットアッパーとして、素晴らしい投球を続けている。高津は、ここまで(8日現在)20試合を投げて3勝0敗、防御率は1.27という成績を残しており、最初の3試合までに失点してからは、17試合連続の無失点を続けている。
さらにもう少し高津の好投を証明するために、ややマニアックな数字をあげるとすると、それは被打率が.153と一割台を維持していること。
通常リリーフ投手で、被打率がニ割を切るということは、超一流のクラスを表すものだ。例えば昨年のナショナルリーグのセーブ王で、その年最も素晴らしい成績を残した投手に贈られる、サイ・ヤング賞(各リーグ一人)に選ばれたエリック・ガニエドジャース)の被打率は.133、アメリカンリーグのセーブ王のキース・フォーク(アスレチックス。現レッドソックス)は.184である。
昨年、防御率1.48という驚異的な数字で、キャリア最高の成績をおさめた、長谷川滋利マリナーズ)でも被打率になると、.235という成績に終わっている。
まだ全日程の3分の1弱しか終えていないために、セーブ王たちと単純な比較はできないが、それでも防御率やその安定感は素晴らしいものだ。


現在ホワイトソックスのクローザーは、02年のアリーグ・セーブ王、ビリー・コッチが任されているが、ここまでは昨年と同様に、安定感がない投球が目立っている。23試合に投げて1勝1敗8セーブ、防御率は5.40というものだが、これらの数字の中で防御率が5点台というのは、クローザーとしては余りに物足りない。クローザーのリミットとしては、3点台はどうしても欲しいところだ。
ただ高津にないコッチの武器は、三振を取れる150キロ台の速球を持っていること。そのため彼は投球回数以上の三振数を取っており、三振が取れるということは、塁上にランナーを背負った状態での登板が多いリリーフ投手には、大きな武器になる。
だがそれにしても先日6日のマリナーズ戦の最終回に、イチローのヒットを皮切りに2点差を逆転され、今季初めて敗れたような試合を続けてしまうのならば、今の不安定な防御率を見ても、クローザーを降ろされる可能性は高いだろう。


ではそうなったときにはたして、高津にクローザーの役は回ってくるだろうか。
だがその高津登場の前にもう一人、実績を加味した信頼度では、恐らく順位が上であろうと思われるセットアッパーがいる。それは昨年防御率1.58という、素晴らしい成績を残した左腕ストッパーのダマソ・マーテだ。(詳しいデータはこちら http://sports.yahoo.com/mlb/players/6261
マーテは今シーズンも22試合に登板して、1勝2敗2セーブ、防御率2.82という安定した成績を残しているが、恐らく昨年までの実績から言っても、コッチがこれ以上の不振に落ちいった場合にクローザーに抜擢されるのはまずマーテからだろう。
だがクローザーになれないからといって、セットアッパーの方がやりがいのない役割だといったら、決してそんなことはメジャーリリーグではありえない。
それは現代野球では、投手の健康を考えた分業制が発達した結果、先発投手、クローザー、そしてその間をつなぐセットアッパーという全てのポジションに人材がいなければ勝ち続けることは難しくなったからだ。
たとえ最初の先発投手と、最後を締めるクローザーに好投手を配しても、彼らの間を結ぶ連結部分が欠け落ちてしまうと、勝利の橋は完成しない。
そのためもしも、高津にクローザーの出番が回ってくる場面があるならば、それはホワイトソックスが赤信号を発している状態でもあるということだ。
それは逆に、ホワイトソックスの観点からもみれば、セットアッパーに右腕では高津、左腕ではマーテ、そしてクローザーには元セーブ王という実績をもったコッチのトリデンテ(三叉鉾)体制は絶対に崩したくない、ということでもあるだろう。


かってヤンキースが98年〜00年にワールドシリーズ3連覇した時には、クロザーには現在もメジャー最高の守護神であるリベラを、そしてセットアッパーには右腕にジェフ・ネルソン(現レンジャース)、そして左腕にマイク・スタントン(現メッツ)という3人を配置して、世界一の名にふさわしい最高のブルペンを作り上げていた。そのブルペンを持つ限り、ヤンキースが試合の終盤にリードをしたら、もはやそのリードは不変のものというイメージを相手に与え、事実その3年間のワールドシリーズでは、実に12勝1敗という恐るべき成績でチャンピオンにあり続けた。
確かに才能がある若い投手は、まず先発かクローザーを目指すという現実はある。だがその二つだけでチャンピオンになることは難しい時代でもあるし、大半のチームで良質のセットアッパーは常に不足しているという現実もある。
セットアッパーでも、スターになれる時代が今、来ている。