速球(ファストボール)

ファストボールには以下の4種類がある。

1、フォーシーム・ファーストボール

日本でいう「直球」に当たり、きれいなバックスピンの規則的な回転で、空を切り裂いて進んでいく。村上氏の言うとおり近年は、ツーシーム・ファーストボール人気が高いが、それでもフォーシームを投げる豪腕投手は数多い。
かって西部のガンマン時代の決闘では、抜き打ちの早さが男の強さを決めたが、“現代のガンマン”奪三振型の投手は銃の代わりにフォーシームを使って、己の球の速さで勝負する。
クレメンスに、ハラディ、ガニエの昨年のサイ・ヤング賞コンビ、昨年最多勝のラス・オーティス、昨年ワールドシリーズMVPのベケット、などがフォーシームの代表的な投手。

2、ツーシーム・ファーストボール

別名ムービング・ファーストボール。
フォーシームと違うのは握り方の違いだけだけだが、全く違う特徴を持った速球。
回転が不規則なために、空気を切り裂くことができず、空気の抵抗をもろに受けてしまう結果、ホームプレート付近で微妙に左右に揺れながら進んだり、沈んだりする。良質のムービングボールはまるで、空気とダンスをしているように変化してくれる。
投げている方も予測できない動き方をするため、バットの芯を外すのに効果的だが、不規則な回転のためにフォーシームに比べると、コントロールがつきにくい。
だが空気抵抗が強い分、重い球になるので、芯で打ってもフォーシームほどは飛ばない。きれいな軌道の速球ではないのでフォーシームに比べると、スピードは出ないが、それでもケリー・ウッド(カブス)やランデイ・ジョンソン(ダイアモンドバックス)のように157,8キロを出す投手や、ネン(ジャイアンツ)のように100マイル(161キロ)を超すツーシームを投げる投手もいる。
他に代表的な的な使い手は、次世代型投手プライアー(カブス)、ムシーナ(ヤンキース)など。

3、カット・ファストボール

通称カット。90年代に流行した変化球で、ヤンキースのリベラはこの球だけで、メジャー最高のクローザーにのし上がった。
簡単に言えば横回転の速球で、スライダーほど曲がらない分、球速がある。初めはフォーシームのような外観とスピードで迫ってくるのだが、ホームプレート上に来て、右腕投手なら左に、左腕投手なら右に、速く小さく氷の上を滑っていくように曲がる。
直前まで普通の速球が来たように見えるのだが、手元にくると突如変化するため、ボールを捕捉していたと思ったバッターのレーダーは狂ってしまい、バットの芯を外しやすい。ゴロを打たせるのに適しているので、90年台に注目され、今もその流行は続いている。
代表的な投手はシリング(レッドソックス)、ペティト(アストロズ)、長谷川(マリナーズ)など。他にも調子がいいときのランディ・ジョンソンのカットは、ホームプレート上で90度右へ曲がっていくように見える時がある。

4、スプリット・フィンガード・ファストボール

通称SFF、スプリット。80年頃にタイガースのコーチだったロジャー・クレイグが開発した。
変化はフォーシーム、あるいはツーシームの速球のようなスピードでバッターに近づき、ホームベースの手前でブレーキがかかり、すとんと落ちる。
フォークボールに似ているが異なる球で、フォークより握りが浅い分、球速がでるが、変化は小さい。そのためにバットに空を切らせ三振になるケースよりも、バットの下に当ててゴロになるケースが多くなる。
フォークボールに比べるとヒジへの負担は少ないが、負担がまったくないわけではないので、近年は敬遠気味にあるようだ。
80年台に登場した頃には魔球と呼ばれ、この球種をマスターした投手は次々ブレイクしてスターになっていったが、バッターの慣れもあり徐々にその動きは沈静化していった。
現在の代表的な投手は、アスレチックス“サンフレッチェ(三本の矢)”の一人ハドソンや、揺れながら落ちるスプリットを持つコントレーラス(ヤンキース)など。

※番外編 ストレート

日本の解説者などがフォーシームの速球を意味して使う言葉だが、現在のアメリカではそのようにきれいな軌道でバッターに向かってくるストレートは、「棒球」「最高の打ち頃の球」を意味している。
マッシー村上氏によれば、40年前はメジャーでも、「ストレート」といえばフォーシームの意味を持っていたそうだが、現在では悪い球の代名詞になっているそうだ。
それは素直な軌道ではバットの芯を外すことが少なく、バッターがボールをとらえやすいためである。