速球(ファストボール)

ファストボールには以下の4種類がある。

1、フォーシーム・ファーストボール

日本でいう「直球」に当たり、きれいなバックスピンの規則的な回転で、空を切り裂いて進んでいく。村上氏の言うとおり近年は、ツーシーム・ファーストボール人気が高いが、それでもフォーシームを投げる豪腕投手は数多い。
かって西部のガンマン時代の決闘では、抜き打ちの早さが男の強さを決めたが、“現代のガンマン”奪三振型の投手は銃の代わりにフォーシームを使って、己の球の速さで勝負する。
クレメンスに、ハラディ、ガニエの昨年のサイ・ヤング賞コンビ、昨年最多勝のラス・オーティス、昨年ワールドシリーズMVPのベケット、などがフォーシームの代表的な投手。

2、ツーシーム・ファーストボール

別名ムービング・ファーストボール。
フォーシームと違うのは握り方の違いだけだけだが、全く違う特徴を持った速球。
回転が不規則なために、空気を切り裂くことができず、空気の抵抗をもろに受けてしまう結果、ホームプレート付近で微妙に左右に揺れながら進んだり、沈んだりする。良質のムービングボールはまるで、空気とダンスをしているように変化してくれる。
投げている方も予測できない動き方をするため、バットの芯を外すのに効果的だが、不規則な回転のためにフォーシームに比べると、コントロールがつきにくい。
だが空気抵抗が強い分、重い球になるので、芯で打ってもフォーシームほどは飛ばない。きれいな軌道の速球ではないのでフォーシームに比べると、スピードは出ないが、それでもケリー・ウッド(カブス)やランデイ・ジョンソン(ダイアモンドバックス)のように157,8キロを出す投手や、ネン(ジャイアンツ)のように100マイル(161キロ)を超すツーシームを投げる投手もいる。
他に代表的な的な使い手は、次世代型投手プライアー(カブス)、ムシーナ(ヤンキース)など。

3、カット・ファストボール

通称カット。90年代に流行した変化球で、ヤンキースのリベラはこの球だけで、メジャー最高のクローザーにのし上がった。
簡単に言えば横回転の速球で、スライダーほど曲がらない分、球速がある。初めはフォーシームのような外観とスピードで迫ってくるのだが、ホームプレート上に来て、右腕投手なら左に、左腕投手なら右に、速く小さく氷の上を滑っていくように曲がる。
直前まで普通の速球が来たように見えるのだが、手元にくると突如変化するため、ボールを捕捉していたと思ったバッターのレーダーは狂ってしまい、バットの芯を外しやすい。ゴロを打たせるのに適しているので、90年台に注目され、今もその流行は続いている。
代表的な投手はシリング(レッドソックス)、ペティト(アストロズ)、長谷川(マリナーズ)など。他にも調子がいいときのランディ・ジョンソンのカットは、ホームプレート上で90度右へ曲がっていくように見える時がある。

4、スプリット・フィンガード・ファストボール

通称SFF、スプリット。80年頃にタイガースのコーチだったロジャー・クレイグが開発した。
変化はフォーシーム、あるいはツーシームの速球のようなスピードでバッターに近づき、ホームベースの手前でブレーキがかかり、すとんと落ちる。
フォークボールに似ているが異なる球で、フォークより握りが浅い分、球速がでるが、変化は小さい。そのためにバットに空を切らせ三振になるケースよりも、バットの下に当ててゴロになるケースが多くなる。
フォークボールに比べるとヒジへの負担は少ないが、負担がまったくないわけではないので、近年は敬遠気味にあるようだ。
80年台に登場した頃には魔球と呼ばれ、この球種をマスターした投手は次々ブレイクしてスターになっていったが、バッターの慣れもあり徐々にその動きは沈静化していった。
現在の代表的な投手は、アスレチックス“サンフレッチェ(三本の矢)”の一人ハドソンや、揺れながら落ちるスプリットを持つコントレーラス(ヤンキース)など。

※番外編 ストレート

日本の解説者などがフォーシームの速球を意味して使う言葉だが、現在のアメリカではそのようにきれいな軌道でバッターに向かってくるストレートは、「棒球」「最高の打ち頃の球」を意味している。
マッシー村上氏によれば、40年前はメジャーでも、「ストレート」といえばフォーシームの意味を持っていたそうだが、現在では悪い球の代名詞になっているそうだ。
それは素直な軌道ではバットの芯を外すことが少なく、バッターがボールをとらえやすいためである。

こんなにあります!MLBの球種。(1)

今からちょうど40年前に日本人として、初めてメジャーリーガーになったマッシー村上さんの好著に「ヒット・バイ・ピッチ」(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4883970736/qid=1087775263/sr=1-3/ref=sr_1_10_3/250-5357307-0645813#product-details)というものがある
その本の中には今のメジャーリーグのピッチャーの特徴を、自分がいた40年前と比べて、非常にわかりやすい言葉で表現している箇所がある。


「(最近)顕著になったのが、快速球で三振を取るより、微妙に変化するムービングファーストボールでゴロを打たせる投球がいい投球とみなされるようになったことです。
(中略)(その理由は)三振もとるがフォアボールも多いピッチャーは、どうしても球数が大きくなり、ヒジや肩にかかる負担も大きくなります。そうならないためには、バッターに早いカウントで凡打を打たせるのが一番です。それもゴロを打たせるのが一番です。
なぜならフライは凡打とホームランが紙一重だからです。これがゴロならたとえ芯に当たっても最悪スリーベースで済みますし、運が良ければ内野手の真ん前に飛んでダプルプレーにとることもできます。その結果、メジャーリーグの投手たち、とくに先発投手たちは70年代に入ると、こぞって凡打を打たせる投球を身につけるようになります。
それによってファストボール(速球)も、従来のスピンのかかったきれいな回転のホップする速球ではなく、不規則な回転の、打者の手元に来て微妙に変化する速球を投げるピッチャーが急増しました。これがツーシーム・ファーストボールです。
(中略)速球では空振りさせる目的のフォーシームよりゴロを打たせる目的のツーシームが優勢になったように、変化球も空振りをとる目的のボールから、凡打に打って取る、とくにゴロを打たせる目的のものに重心が移っています。」
その変化球が80年代の申し子SFF(スプリット・フィンガード・ファストボール)であり、サークルチェンジであり、カットボールなのだ。
前置きが長くなったが、今回はメジャーリーグで投げられている球種を、「ヒット・バイ・ピッチ」を参考に紹介していきたいと思います。

セットアッパー<クローザー…?

サンディエゴ・パドレスの大塚に続いて、シカゴ・ホワイトソックスの高津が好調だ。二人ともセットアッパーとして、素晴らしい投球を続けている。高津は、ここまで(8日現在)20試合を投げて3勝0敗、防御率は1.27という成績を残しており、最初の3試合までに失点してからは、17試合連続の無失点を続けている。
さらにもう少し高津の好投を証明するために、ややマニアックな数字をあげるとすると、それは被打率が.153と一割台を維持していること。
通常リリーフ投手で、被打率がニ割を切るということは、超一流のクラスを表すものだ。例えば昨年のナショナルリーグのセーブ王で、その年最も素晴らしい成績を残した投手に贈られる、サイ・ヤング賞(各リーグ一人)に選ばれたエリック・ガニエドジャース)の被打率は.133、アメリカンリーグのセーブ王のキース・フォーク(アスレチックス。現レッドソックス)は.184である。
昨年、防御率1.48という驚異的な数字で、キャリア最高の成績をおさめた、長谷川滋利マリナーズ)でも被打率になると、.235という成績に終わっている。
まだ全日程の3分の1弱しか終えていないために、セーブ王たちと単純な比較はできないが、それでも防御率やその安定感は素晴らしいものだ。


現在ホワイトソックスのクローザーは、02年のアリーグ・セーブ王、ビリー・コッチが任されているが、ここまでは昨年と同様に、安定感がない投球が目立っている。23試合に投げて1勝1敗8セーブ、防御率は5.40というものだが、これらの数字の中で防御率が5点台というのは、クローザーとしては余りに物足りない。クローザーのリミットとしては、3点台はどうしても欲しいところだ。
ただ高津にないコッチの武器は、三振を取れる150キロ台の速球を持っていること。そのため彼は投球回数以上の三振数を取っており、三振が取れるということは、塁上にランナーを背負った状態での登板が多いリリーフ投手には、大きな武器になる。
だがそれにしても先日6日のマリナーズ戦の最終回に、イチローのヒットを皮切りに2点差を逆転され、今季初めて敗れたような試合を続けてしまうのならば、今の不安定な防御率を見ても、クローザーを降ろされる可能性は高いだろう。


ではそうなったときにはたして、高津にクローザーの役は回ってくるだろうか。
だがその高津登場の前にもう一人、実績を加味した信頼度では、恐らく順位が上であろうと思われるセットアッパーがいる。それは昨年防御率1.58という、素晴らしい成績を残した左腕ストッパーのダマソ・マーテだ。(詳しいデータはこちら http://sports.yahoo.com/mlb/players/6261
マーテは今シーズンも22試合に登板して、1勝2敗2セーブ、防御率2.82という安定した成績を残しているが、恐らく昨年までの実績から言っても、コッチがこれ以上の不振に落ちいった場合にクローザーに抜擢されるのはまずマーテからだろう。
だがクローザーになれないからといって、セットアッパーの方がやりがいのない役割だといったら、決してそんなことはメジャーリリーグではありえない。
それは現代野球では、投手の健康を考えた分業制が発達した結果、先発投手、クローザー、そしてその間をつなぐセットアッパーという全てのポジションに人材がいなければ勝ち続けることは難しくなったからだ。
たとえ最初の先発投手と、最後を締めるクローザーに好投手を配しても、彼らの間を結ぶ連結部分が欠け落ちてしまうと、勝利の橋は完成しない。
そのためもしも、高津にクローザーの出番が回ってくる場面があるならば、それはホワイトソックスが赤信号を発している状態でもあるということだ。
それは逆に、ホワイトソックスの観点からもみれば、セットアッパーに右腕では高津、左腕ではマーテ、そしてクローザーには元セーブ王という実績をもったコッチのトリデンテ(三叉鉾)体制は絶対に崩したくない、ということでもあるだろう。


かってヤンキースが98年〜00年にワールドシリーズ3連覇した時には、クロザーには現在もメジャー最高の守護神であるリベラを、そしてセットアッパーには右腕にジェフ・ネルソン(現レンジャース)、そして左腕にマイク・スタントン(現メッツ)という3人を配置して、世界一の名にふさわしい最高のブルペンを作り上げていた。そのブルペンを持つ限り、ヤンキースが試合の終盤にリードをしたら、もはやそのリードは不変のものというイメージを相手に与え、事実その3年間のワールドシリーズでは、実に12勝1敗という恐るべき成績でチャンピオンにあり続けた。
確かに才能がある若い投手は、まず先発かクローザーを目指すという現実はある。だがその二つだけでチャンピオンになることは難しい時代でもあるし、大半のチームで良質のセットアッパーは常に不足しているという現実もある。
セットアッパーでも、スターになれる時代が今、来ている。

21世紀期待の投手が、帰ってくる。(下)

プライアーが最後に登板したのは、フロリダ・マーリンズと戦った昨年のナショナルリーグ優勝決定戦の第6戦だった。先に4勝したチームがワールドシリーズへ進むことができるのだが、カブスはその試合までにすでに3勝を上げていた。
第6戦もプライアーの好投で、8回ワンナウトまでマーリンズ打線は3安打に抑えられ、試合のスコアは3−0でカブスが3点リード。あとアウト4つでカブスは、1945年以来となるワールドシリーズが現実になるところだった。
だがしかし、という形で試合は展開していく。
そのときの状況を簡単に再現してみると以下のようになる。


逆転は8回表、マーリンズの攻撃でワンナウト2塁から始まった。バッターは2番のカステイーヨだったが、彼には粘られ、3本続けてファールを飛ばされる。その3本目のファールが例の、左翼手アルーがファールゾーンでとれたはずのフライだったのに、カブスファンがボールを求めて、手を伸ばし捕球の邪魔をしてしまったために、落球したファールだった。
プライアーはその後、カスティーヨに四球を与え、次のイバン・ロドリゲス
3球目の甘いコースに来たスライダーを打たれ、1点を失う。だが次の4番カブレラには再び素晴らしいコースに、スライダーを投げ込みショートゴロに打ち取った。
これがダプルプレーには最適なゴロで、これでこの回はあっさり終わるはずだったが、ショートのアレックス・ゴンザレスがこのなんでもない打球を落球し、ランナーはオールセーフとなる。
これで一死満塁のピンチとなったプライアーは、次のリー(元オリックス監督レオン・リーの長男)の初球に、ど真ん中の速球を投げてしまう。リーがバットを振るとボールはレフト線を破っていき、これで同点となった。
プライアーはここで降板となったが、カブスはこのあとにリリーフに出した投手も打たれてさらに5点を失い、これで試合の行方は決まった。


8回表にマーリンズが逆転に成功したポイントは3つあったのではないか、というのがこの試合を見た僕の感想だった。
まずカブスファンが、ファールボールの捕球を邪魔してしまったこと。
ダブルプレー目前だったゴロを、ショートのゴンザレスがエラーしたこと。
そして、同点打になる絶好球のボールをリーにプライアーに投げてしまったこと。
このうち前の2つは、プライアーの責任に直接結びつくものではない。
アメリカの観客はホームランボールだろうが、ファールボールだろうが、スタンドに飛んできたボールは進んで取りに行くのが、球場で野球を「enjoy」するための一つの方法だと考えている傾向がある。(そのためにグラブをはめて観戦しているのだ。)
だから自分の近くにボールが飛んできたしまったら、応援するチームに不利になることを一瞬忘れ、手を出してしまうことだって何ら不思議ではないな、といのがそのプレーを見た時のあとまず思った。キャッチできなかった左翼手のアルーは怒りで叫んでいたが、それがアメリカのスタイルならばしょうがない。
2つ目のゴンザレスのエラーについては、額面通りのプレーではないだろうか。つまりまだ彼は全てのプレッシャーを打ち払うことができる選手ではなかった、ということだ。
当然捕球されるべきだったファールフライの落球。そしてダプルプレーには最適だったイージーなゴロがエラー。
プライアーの投球数はこの時点で、118球に達しており、疲れも見え始めていた。例えばここまで簡単に抑えていたカスティーヨに粘られ、あのファールを打たれたのも、疲れからコントロールに乱れが生じ始めていたからだ。通常メジャーリーグでは100〜110球が先発投手の交代のリミットとされていることを考えても、十分に交代の時期は過ぎていた。並の投手なら監督も、リーの打席の前に交代させていただろう。
だが、させなかった。それはなぜか。それはプライアーが超一流投手であり、監督はその格を尊重したからだ。そしてそう信じさせるものもプライアーにはあった。プライアーの最大の武器は、ランナーが塁上に出てピンチが訪れてもピッチングに変化は現れないという、精神的な強さにあったからだ。


これはベースボールプレイヤーに限ったことではないが、人間にはどうして成長を続けていくものと、ある場所で成長を止めてしまうものの2種類がいるのだろうと思うことがある。
その理由には各人それぞれ違うものがあると思われるが、成長を止める方法というのはいたって簡単だ。それは「考える」ことをやめてしまい、失敗しようが成功しようが同じことを毎日繰り返しさえすればいい。
逆に言えばいつまでも成長を止めないものというのは、考えることをやめていないものであるということだ。
何カ月か前に紹介した若きマーリンズのエース、ジュシュ・ベケットがデビュー当時すでにアメリカでは殿堂入りが確実だという報道された意見に、僕も同感だと思うのは、彼にはまさにその「思考力」があるからなのだ。
思考力があれば、失敗から学ぶことができる。事実彼は、プレーオフ最初の2試合での敗戦したからこそ、プレッシャーを抑える方法を見つけ、ワールドシリーズのMVPになれた。と僕は信じているし、マーリンズの老将マキーオン監督もそれに近い意味のコメントを残している。
成長なき者はどんなに素晴らしい球を持っていても、常に相手の優位に立つことはできない。なぜなら今の自分が終着点ならば、追いつく者が出てこないこないとはなぜ言えよう。
そしてベケットと同じその資質を多くの人は、プライアーにも感じている。


リーに同点打を打たれた時、プライアーには言い訳となる条件が十分に揃っていた。
まさか自分のチームのファンが、フライの捕球を妨害(結果的に)するなんて。
まさかあんななんでもないゴロを、ショートがエラーするなんて。
そして投球数は、通常の限界を越えていた…。
だがどんな条件であろうと、自分ができうるベストのプレーというのはある条件に翻弄されることではなく、その条件を受け入れてなお、自分ができることを見失うことではなかったのか。
もしリーに投げたど真ん中の速球がベストピッチだと言うならば仕方ないことなのかもしれないが、僕にはどうしてもそうは思えないのだ…。
それはプライアーが荒れ球の速球派ではなく、コントロールと精神力を兼ね備えた速球派であるからだ。
だから僕には結局、この試合を決めたのはアンラッキーな事故やエラーではなく、プライアー自身だったのではないかと思ってしまうのだ。


そしてそれゆえに、今年のプライアーに対して大きな期待を感じている。もし彼がこの敗戦の理由をアンラッキーなものとして片付けていなければ、大きな果実を得たのではないかと思うからだ。
考える習慣を持ったものには、時として失敗は甘露の一滴となることがある。それは現実から目を背けない限り、失敗が自分に必要なものと、不必要なものをはっきりと知らせてくれる瞬間があるからだ。
こういった才能と思考力を併せ持った選手が、逆境を経験するのをみるたびに僕は戦慄を覚える。なぜなら熱い鉄が打たれるたびに、その密度を濃くし、鋼に変わっていくように、彼らも次に現れるまでには確実に姿を変えているからだ。
僕はプライアーの中の何かが変わったのを、信じている。



(追記)
6月4日のピッツバーグ・パイレーツ戦で、プライアーは今季初めてマウンドにあがり、先発投手をつとめた。結果は6回を2安打、8奪三振の無失点。現在カブスは29勝27敗で、首位とは4.5ゲーム差の中地区4位だが、プライアーの加入はカブスにとって大きな追い風となるはずだ。

21世紀期待の投手が、帰ってくる。(上)

シカゴ・カブスの先発右腕マーク・プライアーが、怪我から復帰し、6月4日にマウンドに帰ってくることが決定した。プライアーは昨年18勝(6敗)をあげ、奪三振数でリーグ2位、防御率でチーム3位の成績を残した23才で、次世代のメジャーリーグを背負う選手と目されていたが、今年の春のキャンプで、右アキレス腱と右ヒジの両方を痛めて、DL(故障者リスト)入りし、今シーズンはまだ一度もメジャーのベンチに入っていなかった。
その間リハビリ・トレーニングを続け、先月30日にはカブス傘下の3Aアイオワで好投。これがカブスのベーカー監督を決心させることになり、6月4日の対ピッツバーグ・パイレーツ戦に、先発することが決まった。


カブスのエースと言えば、21歳の時に1試合20奪三振というメジャー・タイ記録を作った、まずケリー・ウッドの名があがるが、潜在能力ではプライアーの方により底の知れなさが感じられる。
それは彼が、球速、球威、コントロール、そして自分の感情をコントロールできる精神力の4つをすでに兼ね備えている投手だからだ。去年の成績は、これから始まる彼の超一流投手としてのキャリアの始まりに過ぎない。
時速150キロ強の速球に、それよりおよそ20キロは遅い、大きく落ちてくるカーブが、投球に緩急のアクセントをつけ、それらが要所要所できちんとコントロールされる。
プライアーはシンプルだが非常に強力なその武器だけで、一流投手になる資格は十分にあるが、さらに彼をもう一段階上のい選手にしているのはその精神力だ。
例えば彼は、塁上にランナーがいても、いなくても、その投球に変化はほとんど現れない投手だ。たったこれだけのことが、それが彼を他の選手とは全く違う選手にしている。
それはつまりプライアーと戦う時は、彼に対しては精神的な揺さぶりがほとんど意味をなさないし、ましてや自滅というものを期待することはできないのだ。どんな状態でも、そのときなしうるベストパフォーマンスをしてくる投手ほど、難攻不落の城はないだろう。
なぜなら勝利するには常に、彼よりベストパフォーマンスをしなければならないからだ。タナボタの勝利は彼に限っては、ほとんどありえない。


彼がそのような精神を獲得しているのは、他者によって影響されてしまうことが、敗者になるのにもっとも簡単な方法であることを、また他人ではなく最終的には自分を見つめることに集中することが、自分にとってのベストパフォーマンスを尽くすための、最善な方法であることを、知っているからであろうと僕は思う。
大変にシンプルなことだが、いざどんな場面に出会っても、普段と変わらずにその瞬間のベストパファオーマンスを実行するのにはとても難しいことだ。
僕はそのことを思うたびに「なんたることだ」と畏敬の深いため息をついかざるをえない。
彼はこの若さですでに勝利というものが何か知っている。


彼の球速や球威、コントロール、そして実践的な球種を見る限り、彼がもともと大きな才能を持つ投手だったことは間違いない。
だがそれ以上に彼を将来の大投手だと、多くの人に言わしめる要因は、彼の根底にある「思考能力」だろう。
その能力に、才能が兼ね合わされば、どんな危機も乗り越えられそうだという説得力を人に感じさせるのだ。

夏のオリンピックが来ると思い出す。

あと数ヶ月もすると、オリンピックが始まるが、夏のオリンピックと聞くとある一人のメジャーリーガーの卵を思い出す。
その選手の名は、ヤン・ゼレズニーチェコ人である彼はバルセロナアトランタの両オリンピックで、槍投げを連覇した金メダリストで、96年のアトランタ五輪終了後に、アトランタ・ブレーブスの入団テストを投手として受けたのだ。
彼はその年の5月に、現在も破られていない槍投げの世界記録を樹立しているが、野球経験は全くなし。
だがその“世界一”の強肩を、ブレーブスに見込まれた。
当時のブレーブスのスカウト部長、ミスター・シュナイダーはゼレズニーに対して、「野球の経験がないといっても投げる基本は同じ。彼には素晴らしい投手になる素質があるはず」というコメントを残している。
テストでは、野球をしたことがないために投げ方はとてもオリジナルなものだったが(つまり正しい投げ方を知らなかった)、それでも時速136キロをマークした。そして驚くべきは、遠投テストで記録した160メートルという数字だ。
メジャーリーグのどこの球場でもバッターボックスから、センターバックスクリーンまでがおよそ120メートル強。日本のプロ野球の入団テストでも、遠投のリミットは100メート前後なので、ゼレズニーは素晴らしい強肩と言っていいだろう。ただ彼がどれくらいのコントロールを持っていたか、ということは気になる。)


ただその肩だけでは投手として即戦力というわけにいかず、さらにこの入団テストは話題作りの感も強く、ゼレズニーのブレーブス入りは見送られた。
ゼレズニーはその後も槍投げ界の第一人者として君臨し、4年後のシドニー五輪でも優勝し、バルセロナから続き五輪3連覇を達成。さらに昨年の世界選手権でも優勝している。
もちろん今夏のアテネ・オリンピックにも出場してくるそうだ。

ランディ・ジョンソンが完全試合達成!〜128年間で17人目

5/18 ターナーフィールド

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5月18日のブレーブスとの試合で、ダイアモンドバックスランディ・ジョンソン完全試合を達成した。
ジョンソンはまだマリナーズに在籍していた90年に、タイガース相手にノーヒットノーランを経験していたが、完全試合は初めてだった。これまで完全試合の最年長投手はサイ・ヤングの37歳だったが、これでジョンソンは40という年齢に書き換えた。
以下は完全試合を達成した17人のプロフィール。


(選手名)          (達成年)  (プロフィール) 
1 ジョン・ウォ−ド     1880年  通算164勝。メジャー通算7年間でタイトルはなかった。 
2 ジョン・リッチモンド   1880年  不明。
3 サイ・ヤング       1904年  言わずと知れたメジャーリーグの歴史の中で最高の投手。通算511勝は断トツの歴代1位。ノーヒトノーランも1回達成。
4 アディー・ジョス     1908年  通算160勝。ノーヒットノーランも1回達成。
5 チャールズ・ロバートソン 1922年  通算49勝(80敗)。メジャー8年間でタイトルなし。 
6 ドン・ラーセン      1956年  史上初めて、そして今でも唯一のワールドシリーズでの完全試合達成者。だが自身の頂点もその試合だった。通算81勝(91敗)。
7 ジム・バニング      1964年 通称“リザード(とかげ)”。サイドスローからの速球で、両リーグで初めて100勝を達成した投手。通算224勝。
8 サンディー・コーファックス1965年 史上最高の左腕の一人。剛速球と三階カーブであらゆる打者を圧倒したが、30歳という若さで引退した。ドジャースファンにとっては神に等しい投手。通算165勝。
9 キャットフィッシュ・ハンター 1968年 通算224勝。ワールドシリーズではアスレチックスで3連覇、ヤンキースで2連覇を経験。ジム・パーマーとともにアスレチックスの黄金時代を築いた。
10 レン・バーカー      1981年 通算74勝(76敗)。最多奪三振2回。
11 マイク・ウィット     1984年 通算117勝(116敗)。身長201cmの大男だった。ランディ・ジョンソンは208cm。
12 トム・ブローウィング   1988年 通算123勝。レッズの90年のワールドシリーズ制覇に貢献した。 
13 デニス・マルティネス   1991年 通称“プレジデント(大統領)”。その由来は、メジャーリーグでの活躍で母国ニカラグアの英雄になった彼は、サッカーでいえばパラグアイチラベルトのように将来の大統領候補ということ。日本人にそっくりな顔をしている。通算245勝。
14 ケニー・ロジャース    1994年 球速は140キロ台の完全なコントロールピッチャー。現在はレンジャースに所属し、今年の快進撃を支えている。通算163勝。
15 デビッド・ウェルズ    1998年 いかつい顔とは反対の投球スタイルで、メジャー屈指のコントロールピッチャー。ワールドシリーズ制覇はヤンキースブルージェイズで2度体験している。通算202勝。
16 デビッド・コーン     1999年 96年、98〜00年のヤンキースワールドシリーズ制覇をエースとして支えた。昨年メッツで引退。通算194勝。
 
 

といった風に完全試合を達成した投手の中には大投手もいるし、平凡な成績で生涯を終えた選手もいる。
必ずしも完全試合投手=大投手ではないわけだ。
ととはいえ、そのことは完全試合の価値を下げるものではない。なにしろ1876年にナショナルリーグができてからの128年間で、いまだ17人しか達成していない記録なのだ。(その間ノーヒットノーランは、192回起きている。)