ドリュー3兄弟

アトランタ・ブレーブスに、メジャー史上12組目の「同一チームに所属する兄弟メジャーリーガー」が誕生した。
これは1日にティム・ドリュー投手が兄のJ.D.・ドリューがいるブレーブスに3Aから昇格したために、起きたもの。
ティムは昨季までクリーブランド・インディアンスモントリオール・エクスポズに計4年間在籍して、メジャーの登板経験は24試合。2勝4敗2セーブ、防御率7・60という成績を残している。
一方の兄J.D.の方は、元々はセンルイス・カージナルスに1巡目指名を受け、チームの将来を背負って立つ選手と期待されていたが、その潜在能力がいつまでも開花しないため、今オフにブレーブスにトレードされていた。順調にその才能が発揮されれば、3割30本30盗塁は毎年達成できる選手で、守備でも強肩と好守にも定評がある。
今年カージナルスの田口が、昨年より試合の出場機会が増えているのも、彼がチームを去り、外野のライバルが一人減ったことも大きな要因だ。
そのJ.D.の今シーズンのここまでの成績は、打率.294(チーム2位)、18HR(チーム1位)、49打点(チーム1位)と、ようやくその真価を発揮し始めている。
ちなみに、J.D.とティムの弟であるスティーブン・ドリューも、今季のドラフトでアリゾナダイヤモンドバックスから、1巡目指名を受けているがこの3兄弟が、かつてのディマジオ3兄弟のようにメジャーに揃い踏みする日はくるのだろうか。
楽しみである。

ある日、どこからか。

メジャーリーグの世界ではある日どこからか、突如として素晴らしい才能をもった選手が現れるという、おとぎ話のようなことが、シーズン中に何度か起きることがある。
例えばそれは去年の例でいえば、シカゴ・カブスの新しきクローザーになったジョー・ボロウスキーであり、フロリダ・マーリンズのウィリス、カブレラであった。ボロウスキーは01年までの11年間、マイナーリーグ独立リーグメキシカンリーグを流れ渡り、31歳の時にやっとカブスブルペンに入り、メジャーリーグに定着した。つまり彼は20代の10年間は、ずっとアンダーグラウンドの選手だった。
昨年メジャー2年目の彼は、2勝2敗33セーブ(防御率2.63)という成績でクローザーに定着し、クローザーを固定できないことがここ数年の問題だったカブスの弱点を補強して、チームの地区優勝に大いに貢献した。
もう一つのシンデレラプレイヤーたちは、ワールドシリーズチャンピオンになったマーリンズに、シーズン途中でマイナーから加入してきたドントレル・ウィリスと、ミゲール・カブレラという20歳と21歳の選手である。
もしもウィリスが、怪我人が続出して崩壊していたローテーションに入り、前半戦に活躍することがなかったなら、マーリンズプレーオフに進むことができなかっただろうし、またカブレラワールドシリーズリーグチャンピオンシップで、4番に入り、その期待にこたえる活躍をしなければ、マーリンズワールドシリーズ制覇もなかっただろう。


どうして毎年毎年こういうノーマークの選手が出てくるのだろうと思ったときに、脳裏に浮かぶのはマイナーリーグ240チームと独立リーグ5リーグ48チームという数字だ。
288チーム。メジャーリーグ30チームの下に土台となるチームがそれだけいるからこそ、上澄み部分であるメジャーに毎年、予期しない選手が現れることができるのではないだろうか。(何せ288チームの選手のことを全て把握している人間など何人いるだろうか。このほかにもメキシコ、韓国、日本、台湾などにもリーグはある)
逆に日本ではドラフト1位の多くの選手が、即戦力として通用することを期待されているのは、裏を返せば、日本には選手を育てるマイナーリーグのような場所はないということだ。
では日本のファームは何であるのかと考えた場合、それは一軍の選手の調整場所の意味合いが強い。
5軍まであり、外国人枠などないアメリカと、2軍しかなく外国人選手を3人までしか認めていない日本では、競争の激しさがまったく違う。どちらが魅力的な選手が出てくるか、その答えは考えるまでもないだろう。


今、日本のプロ野球ではチーム数削減の方向に動いている。それを決定したオーナーたちには色々な思惑があったのだろが、最も単純に考えた時、288チームの中から選手を選択するのと、10チームの中から選手を選択するのではどっちが優秀な選手に当たる確率が高いのだろうか。
昨年、「もしこの世界が100人の村だったら」という本がヒットしたが、実際にもしこの世界に100人しか人間がいなかったらたまったものではないな、と僕は思う。この世には50億以上の人間がいる。そんなにいるから食糧問題が起きたり、人は殺しあったりするのは事実だが、でもそれだけいるから様々な人間が現れる可能性があると僕は思っている。
チーム数を減らすということは、そこで暮らしている人間が確実に減るわけで、言うまでもなくそれは世界を狭めるということだ。
自分が愛す世界を狭める。どうもそれだけは理解できないことだ。

ファースト・ゴールは70勝

タンバベイ・デビルレイズの年間目標は毎年シーズン70勝(92敗)なのだが、チームができてからの6年間でまだ一度もその謙虚な目標は達成されていない。
今年こそは、去年やっと育ってきてくれた若手選手への期待もあり、70勝のゴールはこえるはずだと予想されていたたものの、5月が終わった段階では、チームには不調が続き、今年も例年通りとても70勝達成は無理だという雰囲気が漂っていた。
チームからは、その不振の理由は日本でやった、他チームとは1週間早い開幕戦のせいでペースを乱されていたせいだという声まで出ていた。
だが6月が始まると信じられないペースで、勝って、勝って、勝っていく。そして気がついてみれば6月25日には、最大で18もあった借金(負け越し数)を返してしまったのである。(27日現在:35勝35敗)


その躍進の原因は、スーパースターと呼ばれる大物はいないが、これからの未来がある若手と中堅どころの選手たちが団結し、バッターたちが一つの線になり始めていることだ。また線にならなければ、この短期間でこれほどの勝ち星をあげることはできない。
生え抜きではタイプが異なった3人が、それぞれ自分の持ち味を出している。昨年22歳で盗塁王に輝いたクロフォードは今年も盗塁王レースを独走し、打率は3割をきちんとキープ。彼が一番に定着すれば、3番にはイチローと同じくアベレージヒッターでありながら、チャンスに強いクラッチヒッター、ロッコ・バルデリが入り、後ろには3割30本は毎年期待できる、広角打法の大男ハフが控える。
彼らデビルレイズ3兄弟の周りを固めるのは、華はないが堅実なルーゴに、その才能は誰もが認める万能外野手ながら、永遠に未完の大砲でいそうなホセ・クルーズJr、そしてヤンキース20世紀末の黄金時代に、不動の5番だった長老ティノ・マルティネスだ。
移籍組みの彼ら3人も大爆発はないが、クロフォード、バルデリ、ハフの3人衆を援護するには十分な働きをしている。
あと問題はシーズン前から予想されていた投手陣の弱さなのだが、チーム防御率がリーグ11位(14チーム中)ながら勝ち続けられているのは、クローザーのファイアーボーラー・バイエスと、セットアッパーの軟投派ランス・カーターが、なんとか終盤の相手の攻撃を最終戦で防いでくれているのが大きい。


実は20世紀以降のメジャ−リーグで借金18を返してしまったチームは、今回のデビルレイズで初めてなのだそうだ。
100年の歴史の中で初めてというのは意外な気がするが、それはまた負け続けた者たちの気持ちを再び変化させるのは、とても難しいということの現れかもしれない。
そういえば02年の終盤ではアスレッチクスが14連勝を飾り、マリナーズでは安泰だとい思われたアリーグ西地区チャンピオンの座を最後に持っていってしまった。
アリーグの東地区にはヤンキースレッドソックスというとてつもなく重い蓋がのっかているために、ワイルドカード獲得(3地区の優勝チーム以外で、最高勝率の1チームがプレーオフに出場)すら難しいのは現実だが、それでも楽しみは残してくれた、デビルレイたちの大借金返済だった。

富豪になったキューバの未完の大器。

23日のメジャーリーグ公式ホームページ(日本語版)に、面白い記事がのっていた。(http://www.major.jp/news/news.php?id=2004062336
記事の主役は、ヤンキースの投手コントレーラスで、この記事を要約してみると、ここまで4勝3敗、防御率6.13と不調が続いていたコントレーラスは、1昨年に祖国キューバを亡命して以来、実に21ヶ月ぶりに妻子と再会した。そのため不振の原因の一つとされていた、家族の問題も解消し、これからは調子も上向いていくだろうという観測の記事である。
面白いと思ったのは、当のコントレーラスのコメントで、「これからは前より精神的に安定すると思う」と、まるで自分には精神的に安定していない部分があると、自ら認めているともとれる発言をしていることだ。


確かにコントレーラスは、精神的に安定しないせいで自分の実力を、全て発揮しているとは考えにくい選手の一人だ。だが投げるボールだけで見ていると、彼には投手としては、ほとんど完璧な能力を備えた人間だということがわかる。
100マイル(時速161キロ)の速球に、140キロ台前半の大きく落下するスプリット、140キロ台後半のスライダーを持ち、調子がいいときには速球は、なんと102マイル(164キロ)までスピードが出る。
100マイルを越える速球を投げられる投手は、メジャーリーグにだってそうはいないし、その快速球と併用するスプリットのコンビネーションも、本来なら恐ろしい威力をもっている。
だが、そういった恐るべき才能を持ちながらも、決してコントレーラスはマウンドからバッターを圧倒したり、試合を支配できる投手ではない。
それは前の試合で、あるいは前のイニングであれほどの好投を見せたと思ったら、次の試合、次のイニングでは全く違う投手になってしまう、いってみれば「乙女心と秋の空」のような投球のせいなのだ。だからバッターは、コントレーラスは一定した投球ができないのを知っているので、ボールにスピードがあることは感じていても、彼に大きな圧迫感は感じていないはずだ。


その原因は、前述のコメントのとおり、慣れない異国の地で家族と離れ、一人で新しい環境の中で戦っていかなけらばならなかった、孤独のせいにあったのかもしれない。だが去年のポストシーズンでの、快晴だった次の日はどしゃ降りの天気のような、極端に日変わりするピッチングに見慣れてしまうと、どうもその不安定さは、家族と離れているせいだけではなく、それが彼の本質なのではないだろうかとも思えてしまう。
ただそれは、家族と再会したこれからの結果によって明らかになってくるだろう。


もう一つコントレーラスを見ていて思うのは、彼はどこかに到達する前に、すでに何かを手に入れてしまった選手ではないかということである。
コントレーラスはシドニー五輪に、キューバナショナルチームのエースとして出場し、金メダルを獲得した。その対価として、ヤンキースは2002年の10月にコントレーラスが亡命して来たときに、3200万ドル(1ドル=110円として、約32億円)を払う4年間の契約を結んでいる。
年俸になおせば約8億円。物価が米国と比べて隔絶的に違うキューバから移住してきたものとって、米国人にとっても高額なこの年俸は、想像を絶する金額だったはずだ。
彼はこの大金をマイナーリーグの試合も、メジャーリーグの試合も1度も、経験する前に手に入れてしまった。彼は初めから、挑戦者でありながら何一つ持たない者ではなく、王になる前に何ものかを手に入れてしまった者なのだ。
そうなった者に、情熱を湧きおこし、目標を与えることほど難しいことはない。


だがコントレーラスがこれ以上の何かを手に入れるにしても、例えばそれを名誉や人生の充実ではなく年俸に限定してみても、彼の情熱を喚起させるには難しいのではないだろうか。たとえ今後精進を続け、球界を代表する投手になったとしても、彼に払われれるだろう年俸は、現在の相場ならば15億円前後だ。(球界の最高年俸投手は、ケビン・ブラウンの約17億円)
だが8億円から15億円に年俸が増えたとしても、祖国を捨てて来た時に契約した8億円の興奮には、決して及ばないことは想像に易い。
そういう選手には、この先どういうゴールを提示すればいいのだろうか。

タイトルホルダーになる?
チームの優勝に貢献する?
人々の記憶に残る選手になること?

だが彼にとって野球は、生活の糧を稼ぐ職業の一つにすぎなかったら、どうだろう…。


もちろんここまで書いてきたことは、あくまで僕の想像の粋を越えたものではないし、コントレーラスの本当の気持ちもわからない。
だが彼のその余りにも恵まれた才能とは、正反対の不安定なものが漂う投球を見るたびに、その原因はどこにあるのだろうと思ってきた。
それは単順に精神的な弱さのせいかもしれないが、同時にどうして自分の才能にもっと固執しないのだろう、しがみつかないのだろうと感じさせる淡白さも彼の投球には感じてきた。
もしかしてそれが現状の生活に対する満足ならば、その淡白さにも納得できる。
だからできれば、彼が何も持たずにキューバからやってきたならば、状況は違っていたのではないかとも思うのである。
それは彼の家族たちにとっては、大きな困窮を意味するので、無責任には望めないことであるが、それでももしこの才能が、メジャーリーグの歴史に残る前に消えていってしまうのは余りにも惜しいと思うのだ…。


家族と再会後、初めて登板した26日のメッツとのサブウェイシリーズでは、6回を2安打、0点に抑え、自己最高の10奪三振を奪った。
その好投は偶然なのか、それとも彼が言った通り家族と再会し、変わった証拠なのかはこれから徐々にわかっていくだろう。、特にヤンキースは地区優勝であれ、ワイルドカードであれ、必ずポストシーズンに進出するはずだから、10月まで彼を見るチャンスはあるのだ。

高津、7月のミッドサマー・クラシックも夢じゃない!

ホワイトソックスの新しいクローザー、高津投手が6月22日のクリーブランド・インディアンスとの試合に2インニングを0点に抑え、チームのサヨナラ勝利に大いに貢献した。
高津はこれで4勝目をあげた(0敗2セーブ)。この勝ち星で高津は、22試合連続無失点を記録し、防御率も1.00というとんでもない成績になってきた。
アリーグのクローザーも今年は好調を維持した選手が多く、ヤンキースのリベラが27セーブで防御率0.96、マリナーズのグァダードが14セーブで1.07、ツインズのネイサンは20セーブで1.34と素晴らしい成績を残している。
セットアッパーのほうでもエンゼルスの快腕F・ロドリゲスが1,17という好成績を残しているが、今の高津の状態では決して負けていない。
そのためクローザーとしてオールスター(ミッドナイト・サマー・クラシック)にでるのは難しいが、セットアッパーとしての出場なら、大いに可能性がある。
大家とともにダークホース的な扱いだった高津の、オールスターでの登板が見られるのならば、これ以上の痛快事はないかもしれない。それは速球がなくても一流の道を歩く方法はある、ということの証明になるかもしれないからだ。

変化球2

サークルチェンジ

カットボールとともに90年台に流行したボールで、現在でもメジャーリーグでもっとも人気のある変化球(チェンジアップの改良型)といってよいだろう。
その理由は速球と同じ腕の振りで投げられるために、バッターに球種を悟られにくく、タイミングを外すのに効果的なのと、ヒジへの負担が少ない点にある。
弱点としてはコントロールのしずらさがあるが、それを克服すると、素晴らしい武器となる。シンカーと同じく、右投手なら右に、左投手なら左に沈んでいき、バッターのタイミングを外し、バットの芯を外した当たりでゴロを誘発させる。シンカーと異なる点は若干球速が遅い点だが、一見して区別するのは難しい。
150キロ以上の速球を持つ本格派の投手が、このサークルチェンジをマスターすると、恐るべき威力を発揮し、緩急のタイミングでバッターを、完全に幻惑する。昨年ガニエはこのチェンジアップと、155キロ前後の速球のコンビネーションで大活躍。サイ・ヤング賞を獲得した。
名前の由来は、「OKサイン」のままボールを握る、見た目から来ている。

フォーク

ワンバウンドになるフォークを、どうしてバッターは振ってしまうのだろうと昔から不思議に思っていたが、それはバッターが「振るか、振らないか」を判断するポイントでは、ストライクになるように見えるからなのだそう。
そのようにフォークがワンバウンドすることが多いのは、高目に入るとあまり落ちないのに、低めに入ると鋭く落ちる性質のためだ。変化の仕方もその性質を受け継ぎ、初めは大きく落ちないが、段々地面に近づいていくと、ぐわっとダイナミックに落ちる。そのために、バッターは錯覚しやすい。
スプリット・フィンガード・ファーストボールと下に落ちるという点で変化は似ているが、速球と比べたとき、数キロ遅いほうがスプリット、15キロ〜20キロ遅いボールがフォークと区別できる。
野茂英雄、そしてクレメンスなどのフォークボールが有名。


ナックル


18歳の女子高校生でも、定年退職した60歳のおじさんでも、時速100キロ前後のナックルを、10球中7球ストライクゾーンに投げ入れることができたのなら、明日からでもメジャーリーガーになれる可能性をもっている。なぜならナックルだけを8〜9割投げていれば、ナックルボーラーとしてやっていけるからだ。
木から落ちた枯葉が、風に吹かれて、上に下に舞い上がるように、ナックルの変化も空気の抵抗をうけて、右にいったり、左にいったり、落ちたり、まるっきり空気任せの動きをする。
遅いから打ちやすいというのは全くの誤解で、球速は無くとも、その動きはほとんど予測不可能。何しろ普通のピッチャーの時より、一回り大きいミットを持って構えている、キャッチャーでさえ、その変化球についていけず、捕球できないことがあるぐらいだ。
そのためバッターが手こずるのも無理は無い。長い間日本では、ナックルボールは日本人バッターには通用しない、あれは大振りするメジャーリーグのバッターだからこそ通用するのだという考え方が一部にあったが、それも松井秀喜が渡米し、レッドソックスの誇るナックルボーラーウェイクフィールドとの勝負に苦戦する姿がTVに流れることで、完全に過去のものになった。
剣豪なら木から落ちる葉を一刀両断できるかもしれないが、バッターが時速100キロとはいえ、飛んでくるダンシングボールをバットでぶったたくのは至難の技だ。

ただナックルには宿命とも言える弱点があって、球速が遅いために、盗塁され放題という一面も持つのはご愛嬌。

ナックルカーブ

ごく大雑把に言えば、通常のカーブより速く、そして大きく曲がるカーブのこと。ナックルとの相似点は、進みにつれて空気抵抗がだんだん強くなることで(ナックルは初めから強いが)、その結果曲がりが大きくなる。
ヤンキースのムシーナが開発したボールで、彼以外ではハラディ(ブルージェイズ)、A.J.バーネット(マーリンズ)などのごく少数の選手しか投げられない。
問題は人指し指一本をボールに立て、その指にひっかけて投げるために、コントロールが極めて難しいこと。だがナックルカーブがその真価を発揮すると、打者の膝元をかすめて、ホームベースを横切り、外角に抜けていくという衝撃的なシーンも目撃できる。


※この3回は、マッシー村上氏の「ヒット・バイ・ピッチ メジャーリーグTV観戦ガイド」を大いに参考にしています。

変化球

カーブ

別名ブレーキング・ボール。(その由来はカーブが来たら、バッターは速球に合わせていたタイミングに、ブレーキをかける必要があるから)
言わずとしれた変化球の代名詞で、右腕投手なら左に、左腕投手なら右に曲がっていく。弱点としては、カーブには回転のいいスピンがかかっているので、当てらればホームランになりやすいということだ。
日本でカーブと言えば、一種類しかないが、野球大国アメリカでは一口にカーブと言っても多彩なバリエーションがあり、特によく使われるカーブの種類だけでも次の5つがある。

  • 「ハード(パワー)カーブ」

球速もあり、曲がりも大きく、球威も重そうなパワフルなカーブのこと。

  • 「12 to 6カーブ」

トゥエルブ・トゥー・シックスカーブ。
時計盤の12時のところから6時のところに移動するくらい、大きく落ちるカーブということ。重力にまったく逆らわず、大きくすとんと落ちていく。和名で言えば「三階カーブ」に当たるだろうか。
史上最高の「12 to 6カーブ」の持ち主は、伝説の左腕サンディー・コーファックスだが、アスレッチクスのエース・ジートのカーブも、コーファックス以来の「12 to 6カーブ」と評価が高い。
日本で言えば、引退したオリックス星野のカーブが、この種類だろう。

  • 「オーバー・ザー・ヘッド・スロー・カーブ」

打者のタイミングを外す、時速100キロから110キロ台のスローカーブのこと。コントロール重視の軟投派投手にとっては、投球の幅を広げてくれる絶好の球種。もちろん速球派が、速球とからめて使っても、効果は絶大。

  • 「ニー・バックリング・カーブ」

スバラしくアメリカ的なこのネーミングのカーブは直訳の通り、バッターのヒザ元をえぐるようにして内角低めに切れ込んでくるカーブのこと。

  • 「レイトブレイキング・カーブ」

ブレーキの必要性に気づくのはレイト(ちょっと後)、との言葉通り、ホームプレート付近にきてから変化を始めるカーブのこと。

スライダー

これまた変化球の王者で、基本的には速球のようなスピードを持ち、打者の手元で横にスライドしていくボール。
ただ現在ではカーブ同様さまざまなバリエーションがあり、横だけでなくタテに変化するスライダーや、カーブのように曲がりが大きいスライダー、ほとんど速球と変わらない球速で飛んでくるハードカーブなどがある。
スライダーを右投手なら右打者の外角に、左投手なら左打者の外角低めを狙ってなげると、バッターからどんどん遠ざっかっていくので、バッターにとっては打ちずらく、当たったてもバットの先端でゴロになりやすいので、よくこのパターンは使われる。

面白いのは全く逆に右投手が左打者のインローに投げると、カットボールのようにバッターに食い込み、ファールなることが多いのだが、日本とは違いアメリカではそのような「ファールを打たせて、カウントを稼ぐ」目的でスライダーを使用しないそうだ。
それは15三振を奪い、完封する投手より、90球で完封してしまうマダックスカブス)のような投手の方を、最高の投手であるとするアメリカらしい。
代表的なスライダーの持ち主としては、カブスのプライアー、レッドソックスペドロ・マルティネスで、特にプライアーのスライダーは、まるでボールが生きているかのように、ストライクとボールの境界線を掠めていく。

シンカー、スクリュー

右投手なら右に、左投手なら左に沈んでいくボール。左投手が投げるシンカーがスクリューと呼ばれる。チェンジアップ、ツーシームと変化が似ており、その違いを一言で言えば球速の差だけ。
実はアメリカにはシュートという表現がないが、この球種が日本で言うシュートボールに当たっている。
外角ギリギリをつく変化球がスライダーなら、内角ぎりぎりをつくのがシンカーの特徴だ。
ただ腕が曲がる反対方向に向けて投げるために、スライダーほどはスピードは出ず、緩急の「緩」部分を担当している。まれにパワーシンカー(別名シンキングファストボール、ハードシンカー)といって、シンカーなのに150キロを超す球を投げる投手がいるが、その代表格はメッツのクローザー・ルーパーだろう。調子がいい時の彼は、ヤンキース打線でも攻略が難しい。
個人的にメジャーで最も美しいシンカーを投げる投手はデレク・ロウ(レッドソックス)だと思っているが、彼のシンカーは右45度の傾斜で空間を横切っていく、まるで教科書のようなシンカーだ。