さよなら、ベテランズスタジアム

今月の21日にフィラデルフィア・フィリーズの本拠地として、71年から使われてきたベテランズ・スタジアムが壊された。現代のメジャーリーグの球場には珍しく人口芝で、そのため打球の速さはいつでも内野手を困らせた。そのような人口芝ヒットを目にすることも、数マイル先にゴミ処理場があるため、ときには風にのって届くゴミの臭いを感じることももはやない。
フィリーズは1876年から続くチームだが、この球場ができるまでは、1915年と50年の2度のリーグ優勝のみしか経験したことがなかった。
だが71年にベテランズスタジアムが完成し、本拠地を移すと、76年から78年にかけて3年連続地区優勝、83年と93年にはリーグ優勝、そして80年には悲願のワールドシリーズを制覇した。
特にワールドシリーズを制したときのフィリーズは実に魅力的なチームだった。エースは史上2位の4136奪三振を奪ったスティーブ・カールトン。彼は通算奪三振数5714で史上1位のノーアン・ライアンにとって生涯唯一のライバルだった。ライアンが豪速球で三振をとるなら、彼は誰も真似できない高速回転しながら落ちてくる独特のスライダーで三振を積み重ねた。性格も独特で、記者たちとは一切しゃべらない、会見もしない、自分の気持ちは誰にもしゃべらないという徹底ぶりで、「ミスターサイレンス」と呼ばれた。
打者では「史上最高の三塁手マイク・シュミット本塁打王8回、打点王4回の豪打に、ゴールデングラブ賞10回の鉄壁の守備はまさに史上最高の名にふさわしい。常に「ホームランか、三振か」というスタイルは、これぞエンターテイメント。一方ゴールデングラブ賞10回の守備は実に堅実で、三塁線を襲う火のでるようなゴロもなんなくさばいた。
さらにもう一人、達成不可能と言われていたタイ・カッブの史上最多安打記録をのちに塗り替えることになるピート・ローズも、この時のフィリーズに加わっていた。
あれから24年、フィリーズは久々にワールドシリーズを狙えるチームをつくりあげてきた。4月からは「シチズンズパーク」が新しい本拠地となる。
伝説が生まれるのは、いつでも球場から。この球場にも、きっといつか語ることのできる歴史がうまれるのだろう。