25人枠の余裕

セントルイス・カージナルス田口壮外野手が、メジャーで開幕を向かえることをほぼ確定的なものとした。メジャー3年目にして初めてのことである。これはトニー・ラルーサ監督が、3月31日の地元紙セントルイス・ポスト・ディスパッチの取材に対し、「田口は(ロースター25人枠に)入っている」とコメントしたことで明らかになった。
カージナルスとの3年契約が今季で満了となる田口は、オープン戦22試合に出場し、打率3割6分5厘を記録していた。
また同紙は、田口の起用法についてジム・エドモンズ、レジー・サンダーズ、そしてら先発の外野手3人に次ぐ、控え外野手の1番手になるだろうと伝えている。

 
メジャーリーグでベンチ入りできるのは投手、野手合わせて25人である。
レギュラーに選ばれなくても、その25人の中にもぐりこむのは、そんなに難しいことなのだろうか。その25人の内訳を考えてみた。


投手の方から考えてみると必要なのは、まず先発投手が5人。そしてクローザーが1人、セットアッパーが左投手、右投手の1人ずつで計2人。
そしてゲーム中盤で2〜3イニングを投げるロングリリーフ投手が最低2人。
また大量失点をしたあとに登板する投手、彼らは日本では敗戦処理投手とよばれ、アメリカではモップアップというが、その投手が最低2人。(といっても専門の投手がいるわけでなく、マイナーからあがってきたばかりの若手投手や、調子を崩した投手がつとめる。)
投手だけで計12人は必要である。
野手のほうでは、まずレギュラーが8人(アリーグではDHがあるために9人)。
そして、怪我した場合のキャッチャーの控えが1人。
足が早く代走ができ、内野をどこでも、できれば外野も守れるユーティリティ・プレイヤーが1人。(こういう選手がいないと代走を出したあとの回を守るときに、交代した選手のポジションを埋められなくなってしまう)
これで野手に最低必要な選手が10人。この数字に投手の数を合わせれば22人で、残された人数はたった3人になってしまう。(アリーグは2人)
そしてこの残る3人の枠は、代打に充てられる。この枠をめぐって田口は、他の選手と争わなくてはならない。こう考えてみると、レギュラーになれないものにとって、メジャーに定着するのは至難の技なのだということを、改めて実感せざるをえない。
また投手でロングリリーフとモップアップを最低2人と書いたのは、場合によっては監督がそこを増やすことがあるからである。(その場合、代打の争いはさらに熾烈なものとなる。)
いくら点をとってもその分だけ取り返されたら、勝つことはできない。そのため監督は投手陣の人材の質を、量で補おうとすることがあるのだ。俗にプロ野球界でいう「投手はいくらいても困らない」という言葉は、あながち日本のものだけではない。
(これまで日本は野手より投手のほうを圧倒的に多くメジャーに輩出してきたが、その理由のいくらかはそのことが影響しているだろう。どこの球団も先発、クローザー、以外の人材は不足しているのだ。なぜなら才能がある投手は先発か、クローザーになってしまう。)



とにかくレギュラーではない野手にとって生き残る道は、その3人の枠に入ることしかない。新庄の守備はメジャーでも全く非の打ち所がなかったが、結局定着できなかったのは、彼が代打でロースターに登録されていたからだ。守備固めや代走のできる小技のきく選手として登録されていたわけではなかった。
田口が今回開幕ロースターを約束されたのも、オープン戦の打撃好調を買われているからなのは、間違いないだろう。
その好調さを維持できるなら、いやそれが実力に変わることがある瞬間があるならば、シーズン通して彼の姿はベンチに見られるはずだが。
あと数日でチームはカブスアストロズ相手に激戦の中地区でサバイバル競争を始める。それは同時に、カージナルスのベンチでも田口のサバイバル競争が始まったことを表すものだ。
もしシーズンを通してベンチに田口の姿を見ることができたら、たとえレギュラーをとれなかったとしても、そのとき僕は田口に大きな賞賛を送りたい。
“誰が何といおうと、もうあなたは立派なメジャーリーガーだ”
と。
そして、
“メジャーリーガーには色々なタイプの選手がいるんです、、、、、、、”
と。


(追記)
メジャーでは9月になると、ロースターを25人から40人に増やす。これは8月でシーズンが終わったマイナーリーグの選手たちに経験を積ますためのものだ。一気に15人も増えるので、選手全体の平均レベルは下がる。日本に来る助っ人外人で、メジャー経験のある選手も、この40人枠の選手だったということがよくある。確かにメジャー経験者ではあるが、厳密は意味でメジャーリーガーとは言いにくい。
去年は田口もこの40人枠で、メジャーに昇格した。
果たして今年はどうだろう。
あのギラギラした太陽の下で行われる8月のデーゲームで、チームが地区優勝を争いをする中に、彼の顔はあるのだろうか。
田口の今後に注目したい。